産経新聞社

ゆうゆうLife

(71)妻の老後対策

 ふと気がついたのだけれど、団塊世代に最近、セカンドハウスを持ち始める人が多い。

 長年住んだ一戸建てのマイホームのほかにもうひとつ。交通便利な場所にこぎれいなマンションなどを持って、家族があっちの家とこっちの家を行ったり来たりなんかしている。

 ウサギ小屋住まい、などと日本人がいわれていた時代のことを思うと、な、なんとぜいたくな、と感心してしまう。

 しかも、この層は、格別富裕層というほどでもない。中の上。夫がそこそこの企業のサラリーマンで、目下定年を迎えている世代だ。

 聞けば、すでに家のローンは完済している。でも、退職金を低利子の預金に回しても得策ではないし、下手に夫がお金を運用して失敗されるのも危ないし…。

 という事情の中で、「ねえ、ねえ、だったらマンションでも買っておかない?」という妻の強力な提案で、そういうことになってしまうらしいのだ。

 ある知人は言う。

 「だって先が長いんだから、60代で年金暮らしを始めるのは駄目よ。夫には、マンション購入という負荷をかけて第二の職場でせめて70歳までは働いてもらいたい。それに…」

 そう、それに…、いずれ夫が先に亡くなって、妻は女の1人暮らしになる予定。その時は、一戸建てを売却して、「私は便利なマンションで1人暮らし」というつもりもあるらしい。

 つまりは、妻の老後対策。

 なにしろ、子どもには介護を期待できない世代である。ここは自分の資産を今のうちにしっかり確保し、いずれは、この資産を全投入して、老人ホームにでも入らなきゃならないじゃない?ということのようだ。

 「だからね、自分の老後用のマンションを夫に購入させる、これはね、女の危機管理なのよ。あなたは、大丈夫? ちゃんと考えている?」

 団塊世代の女性たちは、なにかと「女の自立」について、あれこれと言い募ってきたけれど、それを実現するのは簡単ではなかった。

 そして今、本気で自立を迫られるのは、実は、自分が老いた後のことであったのだと、とうとう気がついてしまったのだ。

 だから、「私も70歳をめどに自立しなくちゃ」などと言いつつ、今から、着々と、夫を上手に活用して、資金準備は怠りなく、と考えねばならないらしい。

 なんで?と思っていたセカンドハウスブームには、それなりのわけがあったのである。(ノンフィクション作家 久田恵)

(2008/06/06)