「60代の夫の両親が熟年離婚しちゃったんですよ」
ある40代の女性が、はあ、と吐息をついて言った。
なんだか、大変そう。
「そう、大変です。老後の両親には一緒にいてくれないと、困ります。介護だって、あっちとこっち、2倍の労力がかかりそうで将来が不安です」
それで、思い出した。
以前、夫の両親が熟年離婚したため、義父の面倒をみるために、夫の実家にせっせと通っていた知人がいたことを。
なんで、この私がこんな目に遭うの?と嘆いていたけれど、長女夫婦の家に長く居候していた義母は、結局、義父のもとに戻った。
そして、再婚(離婚を解消したということ)。その後は、夫婦2人で90歳近くまで共に暮らし、最後は一緒に老人ホームに入居した。
その時、知人がしみじみ言っていたのである。
「娘の家族と遠慮しながら同居するか」「たとえ仲が悪くとも、夫婦で暮らすか」
この究極の選択を迫られたら、たいていは「夫婦で暮らす」を選ぶものかもしれないわ、と。
つまり、子どもが自立するまで一緒に暮らせた夫婦は、たとえいっとき険悪になっても、最後は寄り添い合える、ということ。
当時、彼女は中年期の真っただ中で、夫との関係では、あれこれと関係悪化の状況にあった。でも、この老義父母の離婚、再婚の顛末(てんまつ)から多くのものを学んだと言っていた。
夫婦というものは、聞けば聞くほど奥が深い。はたからみていても、どんなきずながあるのか、ないのか、分からない。
そんなわけで、先日、今時の80歳前後の方々に「誰に介護をされるのがいいか」と聞いてみた。
結果は、やっぱり、一番は配偶者(健在でいればだけれど)、次いで、ヘルパーさん、子どもや嫁は「避けられるものなら、避けたいわねえ」とのこと。
延々と親の介護をしてきた娘の私としては、がっくり。「私の人生はなんだったの?」と言いたくなったけれど、その理由は「子どもはかわいそうだから」とか。
ある老婦人が言った。
「あのね、夫はね、たとえ嫌いでも気楽なの。介護して当然でしょう、と思えるの。あなた、夫婦ってそういうものですよ」ですって。そうかあ、夫婦は、結婚式で「病めるときも、健やかなる時も…」と誓った関係でもあるわけだしなあ、と思うばかりだ。(ノンフィクション作家 久田恵)
(2008/06/27)