産経新聞社

ゆうゆうLife

(92)一皮むけてみたけれど

 目下、アンチエイジング(抗老化)の体験取材中である。年をとればとるなりの仕事があるものなのねえ、と感慨深く思いつつ。

 というわけで、先日も美容医療クリニックなるところを初体験した。いざとなると度胸のいい私である。この際、整形でもなんでもいいわ、体を張るわよ、と思ったけれど、さすがにそれは…、ということでケミカルピーリングという施術を受けることになった。

 この「施術」という言い方がちょっと怖い。聞けば、顔の表皮をケミカルに(化学的に)、ピーリング(むく)する、という。

 よく、「一皮むけた」と言うけれど、あれである。

 老化でくすんだ肌を、一枚、酸で溶かしちゃうのだそうだ。すると、代謝が促され、肌のきめが整い、透明感も出て見違えるようになるらしい。

 「あれ、いいんですよねえ」と若い女性スタッフにも言われ、それほどポピュラーな施術なのかと、驚いてしまった。

 まずマッサージ。

 これが実に心地よい。他人さまにこんなことまでしていただいてぇ、という思いがする。続いて登場した皮膚科の医師の手で酸を塗られたとたんに、顔がぴりぴりとする。傍らで、どなたかが扇であおいでくださる。さらに、途中、にんにくエキス入りの超高濃度ビタミンCの点滴までやることに。

 さすがにこんなことをして大丈夫かあ、と不安になったが、無事、事故もなく終了。

 スタッフからは、顔がきゅっと引き締まり、色が白くなったと大賛辞を受けて、期待して鏡を見たけれど、私には、ただ顔が赤らんだという感じ。なにしろ一皮むいたのだからしかたがない。

 いずれ効果は徐々に、と期待をしていたら、確かに肌にはりが出たような。しみが薄くなったような。そんなわけで、会う人ごとに「私、変わった?」と聞き続けてみた。が、しかし、「きれいになったような気がする」と答えてくれたのは、5人中1人のみ。

 そう、人は誰かの顔など、そんなにしみじみ見てはいないのである。やはり、小手先で見た目を若くしようなんて、なんぼのものか、なのである。

 いきいきしているとか、楽しそうとか、そういう感じこそが、アンチエイジングの本道と実感。今流行の費用対効果、コストパフォーマンスからいっても、美容医療は、どうかなあ、なのであった。そんなこと体験せずとも分かるでしょうに、と言われそうだけれど、念のため結果報告まで。(ノンフィクション作家 久田恵)

(2008/11/07)