産経新聞社

ゆうゆうLife

(101)なんでも病気のせい?

 大学生の女の子から、相談を受けた。

 母親が、最近、急に文句ばかり言って不機嫌なのだけれど、それがもう異常としか思えない、これって更年期とか言う病気じゃないのだろうか。いや、いや、認知症かもしれない、病院に行った方がいいのではないかとまで言う。

 で、どういう時に文句を言われるの?と聞いてみたら、部屋が汚いとか、食事の後片付けをしないとか、帰宅が遅いとか、いちいち言うのだと。

 だったら、部屋を片付けてみたら? 言われる前に食後のお皿を洗ってみたら? そうそう、帰りが遅い時は、ちゃんと連絡してみたら?と言ってみた。

 アドバイスとも言えないアドバイス。そのまんまの忠告。

 そうしたら、なんと、後日、お礼を言われた。母親があまり文句を言わなくなったばかりか、一度、家事を手伝ってみたら、「ありがとう」と言われて、うれしかった、です、って。

 おお、すごい時代だなあ、と考えてしまった。

 親子はあまりに近すぎてお互いが見えにくい、と言ったって、いくらなんでも、これでは見えなさ過ぎだ。

 と思っていたら、今度はある男性から愚痴られた。

 妻が、最近、様子がおかしいのだ、とか。些細(ささい)なこと、たとえば、トイレの電気をつけっぱなしにしているとか、脱いだ靴がそろえてないとか、これまで見過ごされていたことにキレてしまうようになった、と。妻は更年期だろうか、はたまた、なにかの精神的な病気だろうか、とすごく心配しているのだと言う。

 私としては、いままで見過ごしていた些細(ささい)なことが積もり積もって見過ごせなくなったわけだから、トイレの電気は消せば? 玄関の靴をそろえれば?と、これまたアドバイスにもならないアドバイスをしたのだった。

 こちらの方は、まだお礼を言われてはいないけれど、妻とか母親とかの不機嫌のこの分かりやすさが、家族には一向に理解されず、すぐに病気のせいにされてしまう現実にはあっけにとられる。

 というよりは、なんでも病気のせいにしてしまえば、なにごとも考えずに済むのでラクということかしら。

 そういえば、私もよく言われた。「おかあさん、このごろ、ヘン」。「お前は、このごろ、ヘンだ。怒りっぽくなったゾ」とかなんとか。その度に、もうやってられない、と思ったものだった。(ノンフィクション作家 久田恵)

(2009/01/16)