数日前、女の井戸端会議であの歌をめぐって盛り上がった。
そう、目下、大ヒット中の秋元順子の「愛のままで」について。
なにかと彼女は「最年長歌手」と言われているけれど、60歳過ぎて世間で新たに現役を張る、というのは注目に値することだったのね、と再認識させられる。
ちなみに、彼女はアラフォーにあやかって「アラカン」(還暦前後)とか「団塊の星」と言われていて、さらに、彼女の歌、「愛のままで」は、「熟年離婚防止ソング」とまで称されているらしい。
歌詞をよくよくみれば、なるほど、だ。世間では、不倫(果実をついばむ小鳥)だなんだで騒いでいるけれど、他人と比べる愛などどうでもいいわ、私はあなた(夫)からの愛のまなざしさえあれば、それでいいのよ、と。
ウム。確かに子育てを終えた熟年夫婦間でのエロス的関係の回復を願った歌か、と読める。
思えば、秋元順子は「マディソン郡の恋」という歌も歌っている。今、「愛のままで」にハマっている団塊世代の妻たちは、十数年前の40代半ばのころは、あの不倫恋愛小説「マディソン郡の橋」にも狂ったのだったなあ、と思うとなんか感慨深い。
そう、平凡な主婦が、突然、登場した男と4日間の恋におち、そこに永遠の愛を見るという内容。
「長い間、わたしはあなたに向かって、あなたは私に向かって歩いてきた」という、これまた愛の出会いの奇跡を語るフレーズにしびれたはずだったのだ。
だからねえ、と既婚の同世代が主張した。
「やっとね、マディソン郡の見果てぬ恋の夢からさめて、老後のために夫との愛を仕切り直したいと願い始めたのよ。夫の愛が欲しくなったのよ。だって他にいないしい…」だって。
でも、と未婚の同世代が茶々を入れた。
団塊夫の間でヒットしているすぎもとまさしの「吾亦紅(われもこう)」では、「かあさん、ボクは離婚を決意して自分らしく生きていくよ」って、亡き母にマザコン宣言しているよ。もう、遅いんじゃないの? と。
すかさず、離婚した同世代(私か?)が声を上げた。ともかく、出会いの奇跡でもなんでも「愛のままで」なんて、もう絶対うんざりよ、生身の男はもういいわ、だって。
ひとつの歌も立場立場で、いろいろな思いで聴かれているものなのね、と思う。さて、さて、あなたは秋元順子の歌をどんな立場でどう聴いているのだろうか。(ノンフィクション作家 久田恵)
(2009/01/30)