はい、あなたですよ! と、誰かに指差されたみたいに介護の担当者にされてしまう人がいる。
そんな1人である知人に、「あなたが、なんかに書いていたあれを実行したわ」と言われた。
役にも立たぬことを書き散らしている私は、「なんかに書いたあれってなに?」と、思わずドキリ。
おずおず聞いてみたら、介護責任の順番について、とか。そう、長く母の介護をしていたころ、私はそういうことばかりを考えていたのだ。
介護をめぐってなにかと親族間でもめ事が起きるのは、介護責任の順番がはっきりしていないせいではないかしら、と。
とくに、長男のお嫁さんがかわいそう。民法上では、すでに家制度は消滅しているのに、相続権もないのに、介護となると、なにかと「それって長男の嫁の責任じゃないの」なんて言われがちだ。
そこで、民法上の扶養義務に従って、家族における介護責任の順番を1番が配偶者、2番が実子全員と決めて、それを世の常識にしてはどうかと思ったのだ。
ただし、配偶者は、高齢な場合が多いので、実質は、子供が男も女も平等に担うということになる。
これを原則として、家族会議を開いて相談すれば、誰が担当することになっても、「自分の義務を代行していただいて、ありがとう」ということになる。
お嫁さんがやる場合も、夫の介護責任の代行者ということだから、これはねえ、夫への「愛」がなければ、やれませぬゾ、ということになる。
これって、いいんじゃないのかなあ、と思った次第だ。
わが知人は、実父母の介護に直面した折、自分が長男の嫁として義父母の介護で苦労したことを思いだし、この介護責任の順番を兄弟たちに告げてみたのだそうだ。
すると、男の兄弟たちが、なるほど、そうかもしれない、と言ったとか。そして、お嫁さんたちは、そんなふうにお義姉さんが思っていてくれているのなら、協力します、と言ってくれたそうな。
ま、結局は、義父母に続き、彼女が実父母の介護も担当するのだけれど、みんなの協力も無事とり付けて、なんか気持ちがすっきりよ、ということらしい。
なにごとも、物事の筋をはっきりさせておくと、いらぬもめ事も起きずに済む。
それにしても、である。自分の体験した苦労を他のお嫁さんにさせまいとするなんて、わが知人はなんて心根のいい人であることか。(ノンフィクション作家 久田恵)
(2009/03/02)