産経新聞社

ゆうゆうLife

(116)つかず離れずの趣味縁

 シニア世代の集まりで「最近、ハマっていることは?」の話題になった。

 意外と女性で多いのが、「シャンソンを歌う」とか「ジャズを歌う」とか。最近のシニアはおしゃれだなあ、と思う。他には、「陶芸」とか「香木」とか「日本画」とか。渋い。ほほう、と思う。

 で、「あなたは?」と聞かれて、「人形劇ですよー」と答えると、びっくりされる。

 どうも、それはノンフィクションの物書き女が一生懸命やっていることとしては、意表をつく領域のものであるらしい。

 対応に窮してか、「夢があるわねえ」と言われる。けれど、「夢」を語るには、年がいき過ぎ。人形劇の内容は、ついシニカルだったり、文明批評的だったり、さらにはちゃめちゃで訳が分からなかったりする。

 私としては、いわば「困難に満ちた日常からの一瞬の自己解放」を目指してやっている。すでに始めて5年。この趣味のせいで、心身が解放されすぎて、頭のどこかがプッツンしてしまったような気さえする。

 ともあれ、台本を書き、曲を作り、舞台をデザインし、小道具や人形を制作し、せりふを言い、人形を操作し、歌をうたい、楽器を演奏し、衣装を縫い、照明を工夫し…、と人形劇では、いろんな人の才能やひらめきを結集していく必要があるのがいい。

 今や、この人形音楽劇を「パペレッタ」と命名し、私は、シニアの遊びとして普及させたいなあ、と余計なお世話をたくらんだりしているけれど、世間には同好の士がいるものだ。

 このパペレッタのおかげで、五十代後半ぐらいから、私の友人はどんどん増え、1人暮らしの老後は、さびしいどころか、にぎやかさを増すばかりだ。

 今さら、友人、知人を増やしたってわずらわしいだけよ、という人もいる。けれど、年齢を重ねると、仕事縁は希薄になる。家族縁は、なにかと重くてややこしい。地域縁はいったん誰かとまずくなるととんでもないことに。

 その点、趣味縁はいい。

 感性の似たもの同士が、つかず離れず。去るものは追わず、来るものは拒まずで、関係もあまり煮つまらない。世代の幅も広く、たくさんの情報も行きかい、発見も多い。なにより頭と身体と感性をフル稼働で若々しくいられる。

心地よい人間関係は、お金よりも老後の友が支えであるなあ、と思うことしきりだ。

(ノンフィクション作家 久田恵)

(2009/05/04)