産経新聞社

ゆうゆうLife

(118)安全策は「結婚しない」

 待っていても結婚のできない時代とか。ぜひに結婚したい人は、「就活」ならず「婚活」(結婚活動)をするそうだ。

 先日、ある女性に「私、婚活中です。誰かを紹介してください」と頼まれた。

 そこで、彼女の「婚活」のわけを聞いたら「子どもが欲しい」と言う。目下、30代後半。40歳までにはなんとかしたい、と焦っている。

 それで、「たとえ結婚しなくても、子どもは産めるわよ」と励ましたら、びっくりされてしまった。

 そうか、と思った。

 でも、私の若いころ、つまり三十数年ぐらい前には、「未婚の母」がはやりそうな時代もあったのだ。

 実は、私もそうしたい、と思っていた1人で、できれば、結婚制度には背を向けて、自立した女として生きよう、との野望を抱いていたのだった。

 当時、私は、思っていた。

 女性が社会進出して、経済自立ができるようになったら、きっと未婚で子どもを産む人がどんどん増えるのだろうと。

 ところが、そうはならなかったみたい。

 婚活中の彼女は言う。

「未婚の母という、あえて向かい風の中を行くようなリスクのある人生を女は誰も選びません」と。

 そもそも、今の婚活女性の相手への条件は、自分の年収の倍。結婚は、人生をステップアップする手段。就活だって、頑張ってゲットしたのが、不安定な派遣やバイトじゃ、失敗でしょう、と言うのだった。

 結婚は、女にとって、1番安全な永久就職先であるとの幻想はいまだ延々と保たれているらしい。

 確かに「女の自立」をもくろんで、働きながら子どもを育てた私は、今となれば、それがどうよ? でもある。

 あえて向かい風の中を行く意味があったのかと問われれば、それほどの意味は…、とも思う。

 でも、ここまできて言えることは、どんなに安全を図った結婚も、やっぱり大変だということ。

 そして、回りを見渡せば、女にとって結婚はますますリスクのあるものになっているということ。相手次第で、時にとんでもないことになると、思い知らされ続けている。

 結婚しないことで、そのリスクだけは回避できた、と私は時々、自分の人生を祝福したくなることもあるのよ、と言ったら、婚活中の彼女は、「そんなあ、水差さないでくださいよう」だって。

(ノンフィクション作家 久田恵)

(2009/05/18)