先日、知人の一人が「オレオレ詐欺」にひっかかりそうになったそうだ。私の周辺で3人目。いずれも未遂ではあったけれど、この詐欺商売、ほんとうに蔓延(まんえん)している、と実感する。
それにしても、だ。これだけ警鐘が鳴らされていて、手口もよく知っていて、次々、みんながだまされるのは、なぜか?
それぞれの体験を検証してみると、母親であるということが、いかに心理的に無防備であるかに気がつかされる。
電話が鳴って、「あ、おかあさん」と言われたとたんに、みな、「あ、○○ちゃん」と反射的に息子の名前を呼んでいる。
そして、こう展開する。
「声、どうしたの?」
「風邪ひいてさ」
「あら、大丈夫?」
「うん、医者行くけどさ」
「で、熱はあるの?」
自分の息子の声が分からないの?とよく言われるけれど、気持ちが「子供の風邪への心配モード」に入っちゃったら、もう駄目。その時点で、はまってしまっていると言わざるを得ない。
「おまけに携帯落としちゃってさあ、(ため息)、番号言うから、控えて」
あらあ、とすっかり、ついてない息子の心情に共振している。で、本題になるのだ。友人の保証人になっちゃって100万円いるとか、お金貸してとか。
たいていは、母親の裁量で何とかなりそうな金額。そして、「内緒にしといて」と言われると、自分だけを頼りにしてくれていると、母親はぐっときてしまうらしい。どっか、みんな、子供の役に立ちたいのよねえ。
で、携帯でやりとりしているうちに、すっかり息子と思い込む。中には、途中で詐欺に気付いて、「お母さんね、だまされそうになったの! 警察に言った方がいいかしら」と、詐欺師に相談した人までいる。
そんな話で、井戸端会議がにぎわっていたら、1人が「私なら、振込みなんてまどいことしないで、待って、お母さん、すぐ行くからって、現金持って、息子のもとに駆けつけるわ。根掘り葉掘りしつこく聞くし。だから、詐欺には遭わない」だって。
確かに、どんなに遠くても新幹線に飛び乗って、お金を届けに行きそうな母親もいる。超のつく過保護な母は「オレオレ詐欺」には強いということか。
この詐欺には「娘を装って」はない。やっぱりね、母親の弱点は、息子に特化しているらしい。(ノンフィクションライター 久田恵)
(2009/06/18)