通販でガーデニングセットなるものを注文した。
天然アカシアで作った椅子(いす)とテーブルの3点セットだ。
ベトナム製とかで、思いのほか安い。フムフムと思った。こういうのを庭のテラスに置いて、1人でコーヒーを淹(い)れて飲んだり、時には、ワイン付きのおいしいパスタランチなどを楽しんだりしたら、すてきだろうなあと思った。
心待ちにして待った。
ところが、荷物が届いてみたら、自分で組み立てる形式のものだった。
安い!に目を奪われて、うかつなことだった。
やれやれと思って、しばし放置し、でも、このままでは、すてきなランチは遠のくばかりと、組み立てることにした。
結構、複雑。
なにしろ椅子は、アーム付きで背もたれのあるがっしりしたもの。使用するボルトやネジくぎがたくさんある。
説明書を熟読して、用心深く取り掛かったけれど、案の定、簡単にはいかない。
いつものことながら、取り付ける部品の裏表を間違ってやり直し、丸々1日かかってしまった。
こういうことをする度に、自分の不器用さにがくぜんとするのだけれど、途中でほうり出したからと言って、代わりにやってくれる人もいない。根気よく、仕上がるまでやり抜く、これが私のモットーである。
なにしろ、女の1人暮らしである。世間でいうところの「男手」がない。
脚立に乗って、電球を替えるのも、家具を移動するのも、組み立てるのも、重い荷物を持つのも、ちょっとした大工仕事も自立自助。
なにごとも、頼らず、すがらずがいつのまにか身についた。
以前、「女の1人暮らしは、それなりに大変なのよ〜」と愚痴ったら、生まれてこの方、重いものを持ったことがないという知人から、「あら、そういう時は、うちの夫を貸し出すわよ、いつでも言って」などと言われた。
定年後の夫は、妻のお抱え運転手兼荷物持ち、なあんて言っている人もいるけれど、いずれは、みんな一人になる。料理、裁縫などの男の生活自立も大事だけれど、実は女の生活自立の方も重要だ。
ちょっとした大工仕事、家具の組み立てぐらいは、慣れておくに限る。
自分で組み立てたアーム付き椅子に座って、小さな達成感に酔いしれながら飲むコーヒーの味は、また格別なのであった。(ノンフィクション作家 久田恵)
(2009/07/16)