退院前日になると、看護師さんが聞きに来る。「明日、何時ごろ退院予定ですか?」「昼食は取りますか?」。
未定だと、何度も確認に来る。入院中、このときほど、看護師さんが足しげく通ってくれることはないような気がする。
病院はどこも経営が苦しい。だから、ベッドが空けば、次の患者さんを入れたい。入院食を余分に作る無駄も避けたいのだ。
しかし、食べなくても、これまでは患者の懐に無関係だった。入院食は一般的な病院で、1日1920円(患者負担は780円)。診療報酬で決まっていて、1食単位にはならなかったのだ。検査で食べなくても1日分。ずっと、釈然としなかった。
それが4月から、1食あたり640円(同260円)に変わった。朝も昼も夜も同じ額なのは、やや実社会とズレがあるが、食べなかった分は請求されなくなった。患者の素朴な疑問を考慮していただけたのだろうか−。
しかし、理屈に合わない計算法は、今に始まったことではない。“食べない食費”カットで浮く医療費は約300億円。経済界と財政当局からの医療費抑制圧力や、診療報酬引き下げで削減対象になったのだろう。一方、医療側は「栄養管理の経費は同じなのに、総収入は減る」と、反対だった。
どうも、どちらも、患者の不可解など、おかまいなしなのだ。
おずおずと「患者置き去りでは」と聞いたらどうだろう。国や経済界はきっと、「医療費増で保険料や税負担が増えれば、困るのは患者や国民」と言うだろう。医療側も「病院経営が苦しくなれば、結果的に患者さんにしわ寄せが行く」と反論するだろう。
“食べない食費”を負担する分かりにくさは消えたけれど、「患者のため」という両者の意見がどうしていつも真逆なのか、依然、釈然とせずにいる。(ゆうゆうLife編集長 佐藤好美)
(2006/09/15)