秋田県鷹巣町で、24時間の在宅サービスを見たのは7年も前のことになる。介護保険導入の前年だった。
夜、小さな巡回サービスの車で、一緒に就寝介助やオムツ交換に回った。リュウマチで手が不自由な1人暮らしの女性は点眼を受け、夜着に着替えさせてもらっていた。火の元の確認や、夜中のオムツ交換だけのお宅もあった。
全国最先端の福祉を提供する過疎の町。そのサービスを見ようと、年間数千人が視察に訪れた。介護保険にはない、きめ細かなサービスも多い。高齢化率が高いせいで、町には老々介護や1人暮らしが目立つ。しかし、このサービスがあれば、ふるさとで友人、知人と老いることができると思った。
サービスを豊かにすれば、負担額も多くなる。鷹巣町がサービスや負担額を住民主導で決めていたのも斬新だった。
訪れたのは、町民が払う介護保険の保険料が決まるころだった。公募で集まった約70人が「事業計画をつくる会」を作って行政と話し合い、「これまでのサービス水準を維持する」と決めた。保険料は全国平均より1000円高くなった。
その住民説明会に、「つくる会」のメンバーでもある旅館の主人が行くという。「賛同が得られるかどうか、見に行くんですね」と聞くと、こう言った。
「町民がおざなりで賛成してたら、本当に選んだことにならない。ちゃんと言いたいことが言えて、けんかせずに討議できて、一つのことに決まっていくかどうか。それを見届けに行くの」
鷹巣町は平成15年、「身の丈にあった福祉」を掲げた町長が当選。昨年、北秋田市になった。もはや、「最先端の福祉の町」の面影はないと聞く。
それでも、「高齢者の在宅介護」を考えるたびに、私はあの町を思いださずにはいられない。(ゆうゆうLife編集長 佐藤好美)
(2006/11/17)