今週の連載「すこやかに逝きたい」では、英国、ドイツのホスピスと緩和病棟の様子をお伝えした。
取材して印象的だったのは、患者が最期まで自然の中で過ごせるよう、医師らがほとんど「執着」に近いこだわりを持っていたことだ。
ドイツ・ベルリンのシャリテ大学付属病院の緩和医療科では、10の個室がいずれも1階の中庭に面して配置されていた。庭と言っても、もともと森か林だった土地を残したらしく、生えているのはトチなどの大木。
木のにおい、風、木漏れ日を感じながら歩くと、足下の枯れ葉がサクサクと音をたてた。患者は病室からテラスにベッドを出してもらい、家族と静かに語らっていた。
必ずしも、元の環境を生かせる病院ばかりではない。
ドイツ西部のアーヘン大学付属病院は完全空調。しかし、緩和医療科では空調を止め、病室の窓を開けられるよう腐心したという。一部の部屋は中庭に面しているものの、中庭に潤いがないのが、同科教授は気に染まぬ様子。「子供の集まる公園にして、患者がベッドで戸外に出るのを楽しめるようにしたい」などと話していた。
代わりに整えていたのが、占有の広いテラス。枝を茂らせた3メートル近いイチジクやオリーブの木、日よけのついたテーブルやイス。患者の1人は常々、「イチジクの木の元で逝きたい」と言っており、望み通りに逝ったという。
ドイツ人は空調を好まず、木を切ると罰金を取ったりする。お国柄もあるのだろうが、自然のもつ生命力はきっと患者を最期の瞬間まで力づけるのだろう。
オー・ヘンリーの短編「最後の一葉」には、戸外のレンガ塀に描かれた1枚のツタの葉が、病床の患者を力づけ、回復への力を与える。看取りの場の木々を見ながら、私は、五感を使い、最期まで「生」を楽しめる環境をうらやましく思っていた。
(ゆうゆうLife編集長 佐藤好美)
(2006/12/22)