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移植の行方と少年の夢

 脳死肝移植を受けた今川真紀子さん(34)に取材して驚いたのは、手術から11年たってなお、日々、厳しい制約があることだった。

 生ものは食べない、犬や猫にさわらない、観葉植物は置かない−。取材の途中、今川さんの携帯電話が鳴った。「食べちゃだめよのアラームなんです」。日に2回、免疫抑制剤の服用2時間前から食べ物は禁止、1時間前からは飲み物禁止だという。

 どこまで命を紡げるか、不安と隣り合わせでも、彼女はこの上なく幸せそうだった。夏空の下、赤いバケツを手に、公園に行こうとする長男の駈(かける)くん(1)の関心を、家族総出で引きながら、2人一緒の写真を撮った。

 帰途、1人の少年を思いだした。生まれつきの肝疾患で、移植を申請したばかりだった。しかし、日本では当時、法律は通ったものの、臓器移植はまだ一例も実施されていなかった。今川さんの移植はその2年前だが、助かったのは、たまたま英国にいたからだ。

 少年は14歳。中学2年生なのに、身長は125センチ、体重は30キロに満たなかった。顔は土気色だったが、得意だという指相撲では、私が負けた。

 ずっと、「長くはもたない」といわれてきた。母親は「ただ、生きていてくれればと一年一年来たけれど、元気だと、生きられるんじゃないかと期待してしまう。それなら、将来の生活のすべも考えてやる時期かと…」。

 臓器移植法をめぐっては「人の死を待ってまで生きたいのか」などの反対もあった。母親は「人の不幸を待つなんて、とんでもない。口が裂けても、くださいなんて言えない。でも、できるものなら…」。矛盾する言葉は心のままだろうと、胸をつかれた。

 臓器移植法施行から10年がたったが、脳死下の臓器提供は58例にとどまる。少年が元気なら、今23歳。夢をかなえて調理師になっているだろうか。(ゆうゆうLife編集長 佐藤好美)

(2007/08/24)

 

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