日本に生まれてよかった−。ドキュメンタリー映画「シッコ(病気)」(マイケル・ムーア監督)を見ると、実感する。
事故で中指と薬指が切断された中年の大工さんは、保険に入っていない。医師に「薬指をくっつけるのに、1万2000ドル(約140万円)、中指に6万ドル(約700万円)。どうしますか?」と聞かれて、安い方を選ぶ。
米国には日本のような皆保険制度はない。民間医療保険に入るのが一般的だが、6人に1人は無保険だ。
映画で繰り広げられるのは、「地獄の沙汰(さた)も金次第」みたいな例ばかり。治療費が払えず病院から捨てられる老人、被保険者の治療を、保険会社の利益のために却下するお抱え医師、保険会社から治療の許可が出ずに死ぬ患者−。
業を煮やしてムーア監督は海外に赴く。カナダでは、失った5本の指を全部つなげてもらった患者の治療代がゼロ。英国の公的病院も治療代ゼロだ。映画では、こうした国の医療制度がバラ色に描かれる。
でも、よいことばかりではない。
監督は触れないが、例えば英国ではずいぶん改善されたが、手術は順番待ちで時間がかかる。ある英国人の知人は以前、脳動脈瘤(りゅう)の手術が半年待ちだと嘆いていた。公費の増減が、医療の質や量に直結してしまうのだ。高額の費用が払える人は民間病院ですぐに手術を受けられる。
日本では、中指と薬指を切断しても、技術のある病院に運ばれれば、きっと両方つけてもらえる。費用は高額療養費制度(月払いの上限)があるから、15万円程度だろうか。多く払っても、特別な治療は受けられないが…。
医療にはお金がかかる。問題は、公費と私費のバランスをどう取り、何を節約していくかだろう。打ち出の小づちがあるわけではない。費用は結局、誰かが負担するのだから。(ゆうゆうLife編集長 佐藤好美)
(2007/08/31)