「ホンモノの田舎を見た」。長野県栄村へ、介護保険の取材に行った記者が仰天して帰ってきた。
「旅館の夕食なんて、型通りの刺し身や牛肉だろう」と、期待せずにいたら、天然イワナの塩焼きやこいこく、地元産のズイキやフキの煮物、サトイモの炊き合わせなど、手のかかる料理が何皿も出た。村に移住した若者が育てたズッキーニのグラタン仕立ても。
朝は、千切りにした夏野菜のあえ物とカボチャの煮物、トウガンの入った具だくさんのみそ汁−。
野菜料理は手がかかるし、料理のうまい下手も分かるから、“観光地の田舎”ではあまり出ない。それがこれでもかと並び、度肝を抜かれたのだ。
旅館では、やや腰の曲がった女性が働いていた。ビール瓶を運び、フキの皮むきもする。80代、現役である。
栄村は人口2500人。高齢化率は44%と高いが、介護保険料が県下最低なのは、お年寄りが元気なことも理由のよう。要介護と判定されても、軽度なら「畑が荒れないように」と、畑に出る。歩くのが大変でも、畑仕事はする。
それでも、村の担当者が「みんな行者ニンニクの栽培に忙しくて、デイサービスに来てくれない」と話すのを、記者は半信半疑で聞いたという。
ところが、介護保険のデイに行ったら、80代の女性利用者2人から「楽しみは山登り。たいした山じゃないけどねー」と言われ、足腰の差に恐れ入ったのだった。街育ち、虫が苦手な記者は「見える山はどこも、私には本格的な山に見えたよ」と、敗北気味だった。
本物の田舎暮らしは、食材を作り、収穫し、下ごしらえし、端から端まで手作業。歩いて、畑に出て、近所に働きに行き、引きこもる暇もなく、暮らし自体が介護予防なのだろう。どこまでも自分のリズムを刻む日々をうらやみつつ、介護予防には遠いわが身にため息をついたのだった。(ゆうゆうLife編集長 佐藤好美)
(2007/09/14)