産経新聞社

ゆうゆうLife

永遠のヒロイン

 アグネス・チャンさんのアポイントが取れた後、関西出身の北村理記者(44)が、いつも通りのボソボソ声でつぶやいた。「どうしよう。おれ、ずっとファンやったんや。取材の日まで寝られへんわ」。その場で妻に電話して、報告する舞い上がりぶり。

 「掃除の時間に、ホウキをマイク代わりに歌ってたんや」

 しかし、目の前にいるのは、おなかの出始めた、半分白髪の中年男性。ホウキをマイク代わりに歌う図が浮かばない。苦心していたら、こわもてでならす隣席の女性記者(40)が「私もアグネスのレコード、持ってた」という。人は見かけによらない。恐るべし、アグネス。

 仕事柄、会いたい人には口実があれば会える。しかし、意中の人への取材はおそれ多く、記事にするのは恋心を伝えるに似て難しい。

 ある女性記者は支局勤務時代、熱烈に好きな女性美術家が会見すると聞き、人の業務を奪ってはせ参じた。

 ところが、顔を見たとたん、声も出ず、質問もできずじまい。ひたすら写真を撮りまくったという。ほとんど追っかけ。一方で、昨日まで当の美術家の名前も知らなかったような他社の記者が「あなたにとって、創作って何ですか」と、大それた質問をするので、冒涜(ぼうとく)にも似た気持ちを抱いたらしい。ファンを刺激すると、後で闇討ちに遭いかねない。

 崇拝する映画監督に取材に行き、失敗談を聞くはずが、作品談議に熱中してしまったという男性記者もいる。

 さて、取材を終えた北村記者は興奮冷めやらぬ様子。おおらかなタイプなのに、珍しく写真選びにこだわり、どこまでも食い下がる。

 「アグネスに『いつまでも、お友達でいてくださいね』といわれた」と、ほおを染める。はいはい。恋路ではないけれど、馬にけられぬよう言葉少ない私なのだった。

(ゆうゆうLife編集長 佐藤好美)

(2007/10/26)