産経新聞社

ゆうゆうLife

内臓美人と言われても…

 「背骨が、背中にないんです」

 記者が取材から帰ってきて、興奮気味に訴える。何かと思ったら、メタボリックシンドロームの話だった。おなかの断面のCT画像をたくさん見てきたという。輪切りのおなかは楕円(だえん)のはず。ところが、見せられたのは、どれも内臓脂肪がついて、まん丸。皮下脂肪も背中について、背骨がまん中に近い人も。これでは、早晩、命にかかわる。

 しかし、今ひとつ危機感がわかないのは、素人は画像に実感を持てないからでは。

 記者も素人だから、最初はCT画像など見せられても、何がなんだか分からない。内臓を指差し、「先生、この黒いのは何ですか」などという具合だ。それが、何枚か画像を見て、違いが分かるようになり、説明を聞いて、怖さがつのるようになる。

 くだんの記者も今や、「ほら、こっちの画像の方が、内臓がきれいに収まってる」などと言うようになった。内臓の配置に美が見いだせるのは、もはや常人の感覚でないのでは、と不安になる。

 そういえば、メタボリックシンドロームなどという言葉がこれほどポピュラーでなかったころ、医師に内臓をほめられた経験がある。

 肝疾患の疑いがあり、撮影したCT画像を前に緊張していたら、医師が画像に見入ったまま、ほれぼれと言った。「いやあ、きれいな内臓だなあ。こんなきれいなおなかは見たことがない。ほら、この辺り。内臓脂肪が全然、ないでしょう」

 医師というのは、画像でこんなに感動できるものかと驚いた。うれしいといえばうれしいが、なにしろ、ほめられたのは内臓である。見えないのだ。しかも、医師は画像に心奪われたまま。「先生、私はここよ。こっち向いて」という気分だった。

 しかし、容姿をほめられる年でもなくなった。仕方がないのでひとりごちる。私、中身はすごいんです。(ゆうゆうLife編集長 佐藤好美)

(2007/11/30)