同僚記者が「祖父が焼いたんです」と、人数分のマドレーヌを持ってやってきた。卵色の生地、ほのかな甘さは手作り洋菓子店の味に似て、幸せな気分になった。
彼女のおじいさんは90代。以前はザッハトルテも作ったというから、ハイカラさとマメさがスゴイ。もっとも戦前は飛行機を作る会社にいたというから、マドレーヌなんてお手の物かも。
そのお宅に介護保険でヘルパーが入ることになった。2人暮らしの妻が要支援2で、本人も要支援1。最大の心配事は食事だと聞いて、ケアマネジャーは「ヘルパーは週に何回がいいですか? 料理の味付けはみてくださいね」。ついでに、洗濯も買い物もしてしまいそうな雰囲気だったという。
しかし、孫である同僚は悩ましげだ。「祖母ができない部分だけしてくれるとか、祖父と料理をしてくれるならいいけれど…。私、いつまでもマドレーヌを焼くような祖父でいてほしいんです」
彼女が心配しているのは、ヘルパーが入ることで2人の生活は楽にはなるが、時間はかかっても買い物をし、料理もする今の生活が崩れれば、できないことが逆に増えるのではないかということ。
本来、要支援の人への訪問サービスは、例えば一緒に台所に立ち、できない部分をサポートし、自分で料理できるよう促すこと。だが、そんなサービスをする事業所はまだ少ない。
マドレーヌを焼くのに4時間かけたと聞くと、90代での家事は大変だと思う。しかし、介護が不要な状態を維持するには…。記者一同、代行型家事援助はどこまで必要かと悩むのであった。
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2年間、コラムを読んでいただき、ありがとうございました。来週からは取材の裏話、こぼれ話を記者が交代で書く「編集部から」をお届けします。
(ゆうゆうLife編集長 佐藤好美)
(2008/03/14)