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がん次への課題(2)遅れる放射線治療



 ■圧倒的なマンパワー不足

 がん治療の3本柱は(1)外科手術(2)抗がん剤(3)放射線−。しかし、日本の治療は外科手術に偏り、抗がん剤と放射線の専門医が極端に少ないのが欠点と指摘されています。手術に比べ、身体へのダメージが少ない放射線治療が遅れている背景には、日本のがんで最多だった胃がんで外科治療が主流だったことがあります。しかし、食や生活の欧米化で放射線治療が有効ながんも増加。欧米並みの専門医育成が求められています。(柳原一哉)

 会田昭一郎さん(64)=東京都国立市=が、舌にできた腫れがクレーターのようにでこぼこしてきたのに気づいたのは平成12年の冬だった。かかりつけの病院で「腫れの様子が変わらないか注意を」と指導されていたことから、すぐに診察を受けたが、「舌がんができている」と告知を受けた。

 約4センチと小さくないサイズだった。医師は入院のうえ、抗がん剤と外部放射線で治療する方針を示した。予後次第では舌を切除する可能性もあるという。

 父も部下もがんで亡くした会田さんにとって、がんは死病を思い起こさせる。「あと半年の命と思い込み」(会田さん)、勧められるまま入院日程を決めた。

 「退職して治療に専念する」。会田さんが上司にそう告げると、がんの経験のある上司は「本当にその病院でいいのか」「セカンドオピニオンはとらないのか」と尋ねた。

 その言葉が転機になった。「やはり、やるだけやってみよう」とインターネットなどで治療法を探し、舌がん治療の国際標準「小線源治療」を知った。放射線を発する物質を腫瘍(しゆよう)付近に埋め込んでがん細胞をたたく。日本では国立病院機構、北海道がんセンター(札幌市)に専門医がいると知り、セカンドオピニオンを申し込んだ。

 飛行機で診察に出向くと、「最初の病院で示された治療法では、がんは治らない。転移し、1年半で死亡する恐れがある」と言われ、会田さんは札幌での治療を決意した。

 3週間の入院でがんは根治。半年後には職場復帰し、現在は経過観察中だ。会田さんは「放射線治療はダメージが少なく、効果が高い。小線源治療は国際標準なのに、日本ではあまり行われておらず、東京の医師も知らなかった。あのまま治療していたら、舌の切除で自由に話もできなくなっていたかもしれない」と話す。

                  ◆◇◆

 日本の放射線治療について、東京大学医学部付属病院放射線科の中川恵一助教授は「圧倒的なマンパワー不足がある」と話す。

 たとえば、放射線腫瘍学会認定の放射線治療医は日本では500人に過ぎないが、人口が倍の米国では日本の12倍の6000人。治療施設も同様で、日本が700カ所に対し米国は3・4倍の2400カ所に上る。

 放射線治療が遅れている理由について、中川助教授は「がんといえば、これまで胃がんが主だったことと無関係ではない」と指摘する。日本人に多い胃がんは従来、手術による切除が有効な治療法。このため、がん治療は外科手術を中心に発展してきたといえる。

 加えて、「悪い部分は切り離してきれいにするという日本人独特の感覚も拍車をかけてきた」(中川助教授)。

 ところが食生活やライフスタイルの欧米化に伴い、がんができる部位も多様化。直腸や乳房、前立腺(せん)などへのがんが増えてきた。これらは放射線治療が有効である場合が少なくない。それなのに、「治療はまだまだ手術偏重。放射線腫瘍学講座がある大学は12にとどまり、医師の育成が進んでいない」と中川助教授は力説する。

                  ◆◇◆

 放射線治療は、マンパワー不足に起因する誤照射事故も目立ち、万全ではない。しかし、医療費の面でも、手術とは雲泥の差があるなど、メリットも大きい。

 外科手術、抗がん剤、放射線がバランスよく提供されれば、医療費抑制を果たしつつ、治療効果も上げるのではないかと期待される。

 今夏、成立したがん対策基本法には、参議院厚生労働委員会の付帯決議で、放射線専門医の育成が盛り込まれた。

 放射線治療は、がん治療の大きな柱になりうるのか−。会田さんは「患者が放射線治療に目を向け、専門医にセカンドオピニオンを依頼するようになれば、医師を取り巻く環境も変わる。医師も施設も充実していくはず」と話している。

(2006/08/29)

 
 
 
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