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がん次への課題(3)足踏みする登録制度

 ■個人情報保護と板挟み

 国民の3人に1人ががんで死亡する時代。罹患(りかん)率や生存率を割り出すには、個々の患者のデータを収集する「がん登録」が必須です。がん対策の“中枢神経”ともいわれるがん登録は法制化されていませんが、その推進は、がん対策基本法にも盛り込まれました。個人情報保護との兼ね合いなど、課題も残されています。(柳原一哉)

 「どんな人がどんながんにかかり、どんな治療を受け、どうなったのか。全国レベルで現状把握をしなければ、対策もたてようがないのではないでしょうか」

 乳がんを経験した東京都大田区の主婦、杉山百合子さん(60)はがん登録を巡るニュースに敏感だった。

 今夏、成立したがん対策基本法をめぐっては、「がん登録」を盛り込むか否かが論点の一つになった。結果、個人情報保護の観点から「がん登録」の文言は見送られたが、その趣旨は書き込まれるという玉虫色の決着。杉山さんはそれが釈然としない。

 乳がんを患ったのは平成6年。ぞうきんを絞る腕が胸部に触れた際、違和感を覚えたのが最初の自覚症状。当時の癌(がん)研究会付属病院(現癌研有明病院)で右乳房のがんと診断された。

 手術と放射線治療を受け、12年。再発の恐れも遠のいた。ただ社交的な性格も手伝い、がん闘病経験を隠さないでいると、病院内外からがん患者らの相談が舞い込んだ。患者会の代表を務めるわけでもないのに、苦悩する患者らとともにがんと向き合う日々だ。

 患者としての苦悩を知るだけに、「今は医療の進展で、がんになっても長期生存が可能になってきた。それが、もっともっと発展してほしい。がん登録は現状把握に必要で、医療者が躊躇(ちゅうちょ)する必要はない」と話す。

                   ◇

 がん登録で網羅される情報は、患者ごとのがん発見の経緯▽治療内容▽治療経過−など。

 現在も、一部の病院、地域では行われているが、都道府県単位で「地域がん登録」を行う自治体は34道府県にとどまり、病院単位でも、「登録すべき情報に漏れがあるなど、精度は決して高くない」(専門家)と指摘される。

 しかも、これまで登録様式が統一されていなかったこともあり、「医療機関や地域によって治療成績を単純に比べられない」との指摘がある。

 精度の高いデータが統一様式で集まれば、進行度による治療法別生存率が比較でき、有効な治療法もはっきりする。医療機関ごとに治療成績を出せば、医療機関が弱点を知ることもでき、患者が病院ランキング本に頼らなくても、客観的に病院選びをすることができるようになる。

 「特定部位にできるがんが増えてきそうだ、などの、将来に役立つ情報は登録の地道な作業から得られる」と、がん登録に詳しい大阪府立成人病センター調査部の大島明部長は話す。 

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 だが、思わぬ逆風が吹いた。個人情報保護の動きだ。患者本人の同意を得ないで、病気の情報収集を行うがん登録は、法に触れかねないというわけだ。

 兵庫県は平成12年度、がん登録が県の個人情報保護条例に違反するとして、昭和39年度から実施していたがん登録を中断した。自治体の混乱を避けようと、厚労省は平成16年、がん登録は個人情報保護の対象にならないとの見解を示したが、県は「慎重を期した」と中断したままだ。

 兵庫県は、がん対策基本法にがん登録推進が盛り込まれたことなどを受けて、登録再開の方針だが、専門家からは「混乱を来たさないためにも、法的な裏付けが必要」との意見が出る。「がん登録法」を整備しようというわけだ。

 厚労省は今年2月、同じ登録様式でがん登録をすることを、がん診療連携拠点病院の指定要件にした。「年度内には全国177カ所の拠点病院のすべてで院内がん登録が行われる見通し」だ。拠点病院でがん登録が定着すれば、地域がん登録にも弾みがつく。法制化にも拍車がかかりそうだ。

 欧米のがん登録法制度に詳しい早稲田大学法科大学院の甲斐克則教授(医事法、刑法)は「欧米各国ではがん登録が法制化されており、わが国は立ち遅れている。がん対策という公衆衛生の向上と、個人情報の一定の制限の調和を考えていく必要がある」と話している。

(2006/08/30)

 
 
 
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