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がん 次への課題(4)治療成績公表への道

 ■カギ握る統一基準の整備

 がんを告げられれば、だれもがよりよい治療で病を完治させたいと思うでしょう。しかし、どの病院や医師を選ぶのか分かりにくく、「口コミ」や「イメージ」に頼らざるをえないのが実情です。病院ランキング本があふれるのも、こうした事情の裏返しといえます。病院を治療成績で比べる国の研究も始まっています。まだ“ものさし”としては機能していませんが、期待がかかります。(柳原一哉)

 「治してもらえる病院はどこか」「治りたいがどうしたらいいか」

 京都がん医療を考える会理事長の佐藤好威さん(63)=京都市=に寄せられる相談や問い合わせは、こうした病院選び、医師選びにかかわる内容のものが少なくない。「何か情報がありませんか」。相談者の顔にはすがるような表情が浮かぶという。

 「地域に、がんセンターのようながん治療の拠点病院がなく、安心できない」との思いから、佐藤さんが同会を発足させたのが今年6月。医療の選択に悩む患者らを見るにつけ、思いは強まる。

 相談者のうち60代の男性患者=京都府宇治市=は府内の総合病院で胃がんと診断を受けた。その後、別の大学病院へ転院した男性に、佐藤さんは理由を尋ねたが、歯切れのいい返答はなかった。「口コミで評判がいいと聞いた結果。特に根拠はなかったようだ」と佐藤さんは推測する。

 会のアンケートでも「がん治療は京都市内の二つの大学病院で受けたい」との回答が多かったが、その根拠を示すものはなかった。

 佐藤さんは、父親が胆道がんとその転移で他界。義理の兄も肺がんで亡くした。自らもC型肝炎感染者で、がんのリスクと無縁ではない。

 どこで効果的な治療を受けられるのか−。多くのがん患者がそう考えるのは、病院によってがんの治療成績に格差があることが漠然と知られているためだ。「どの病院、どの医師を選ぶかは難しい問題。それは格差があるため。選択基準とデータがはっきりすればいいのだが…」と佐藤さんは嘆息する。

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 病院選びの“ものさし”はないのだろうか。

 群馬県立がんセンター(群馬県太田市)の猿木信裕・手術部長は厚生労働省の研究班の調査で、病院間の治療成績の格差を数値化した。それによると、5年生存率の差がはっきりと現れた。

 例えば胃がんは、調査基準を満たした18施設の最高と最低で27・8ポイントの開きがあった。肺がん(18施設)は25・2ポイント差、乳がん(14施設)は13・6ポイント差で、病院が違えば、生存率も異なる。

 原因は治療の善しあしとみられる。生存率が低かった病院は治療法などに何らかの課題があるとみてよさそうだ。データが協議会加盟の比較的、質のそろった病院の治療成績であることを考えると、ほかの病院の治療成績はさらに格差が出ることも予想される。

 ただ、猿木部長は「このデータからは病院間の治療成績に格差がある可能性があるとしかいえない。補正しなければならない“雑音”の要素がまだあり、単純比較はできない」と慎重だ。

 たとえば、合併症の有無で生存率は大きく左右される。全がん協加盟施設の患者データは院内がん登録に基づくが、登録の精度が疑われるケースもあるという。施設名公表を控えているのもこのためだ。

 病院によっては、ホームページで5年生存率を公表しているところもある。しかし、猿木部長は「個々の病院がそれぞれの根拠でばらばらに治療成績を公表し始めると、単純比較できないだけに、患者は一層、混乱する」と、懸念する。

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 一方、患者団体は客観的な治療成績が公表されるようになることに期待を寄せる。

 日本がん患者団体協議会の山崎文昭理事長は「格差を公表すれば、病院間の競争も促される。いい病院には診療報酬を加算し、そうでない病院と差をつければいい。患者のための治療ができるよう改善されない病院は淘汰(とうた)されるべきだ」とする。

 研究班も将来的には科学的根拠に基づいて治療成績が比較できるよう、研究を続ける方針だ。

 きちんとしたものさしを作るには、やはりがん登録が強力な武器。根拠に基づいて比較できれば、成績の悪い病院が改善に乗り出す動機にもなる。厚労省がん対策本部は「全国のがん治療の水準を上げる契機になりそうだ」と研究成果に期待を寄せている。=おわり

(2006/08/31)

 
 
 
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