特ダネ情報 住まい 転職 為替
powered by goo

文字の大きさ:

 
 
 

 

icon

得ダネ情報

 
 
ゆうゆうLife
 

病院の食事が変わる(上)管理栄養士、病室へ

 ■栄養ケア 対話を重ねて向上

 入院生活に欠かせない病院食が変わってきています。医療費抑制で食事代が大きく減額され、今後は患者負担が増えそう。一方、栄養管理には診療報酬が加算され、病院の管理栄養士に求められる役割は、「献立づくり」から本来の「患者の栄養ケア」に一転しました。1回目は栄養士がベッドサイドで患者と向き合う高知の病院の取り組みです。(中川真)

 「たくさん食べられるようになりましたねえ。ご飯の量をもっと増やしましょうか?」

 「また野菜を残してますよ。少しでも食べてくださいね」

 月の名所、桂浜に近い高知市の「高知医療センター」(648床)。昼食中の患者に声をかけながら、病室を次々に回っている女性は、管理栄養士の米原小枝さん(31)だ。服装も黒のベレー帽とスカート、白いブラウスとしゃれている。

 交通事故で入院中の20歳代の男性は「毎日、栄養士さんが来てくれるので、コミュニケーションができていいと思う。味が少し薄いとか、盛りつけのこととか意見も直接、言える」と話す。

 管理栄養士の米原さんは島根県出身。同センターがオープンした昨年春、「臨床栄養管理がしっかりでき、やりがいがありそう」と、やってきた。

                   ◆◇◆

 この病院の給食の仕組みは、従来の大病院と大きく異なる。厨房(ちゅうぼう)は通常、地下などにあり、全患者の食事を一手に配膳(はいぜん)。エレベーターで病棟各階に送って、看護師や看護助士がベッドへ運ぶ。

 これに対し、同センターでは厨房以外に、各階に小厨房(サテライトキッチン)がある。厨房では数日分を真空調理などでまとめて作り、毎回の食事は小厨房で再加熱して配ぜんする。ファミリーレストランに似た仕組みだ。

 この結果、栄養士の“主戦場”は、患者と隔絶された厨房から、病棟の小厨房へ移った。米原さんたちは医師の指示のほか、患者の要望、食べ具合に応じて配ぜんし、ベッドまで食事を届ける。どの患者に丁寧な栄養ケアが必要かにも気を配る。

 河合洋見・栄養局長は「ホスピタル(病院)もホテルも、語源は『ホスピタリティー(おもてなし)』。栄養士と患者さんの距離を縮めたかった」と話す。開院準備中の3年前に就任し、病院首脳を説得して予定外の小厨房を新設。栄養部門を全国初の「局」に格上げした。

 目指すのは、栄養士が医師や看護師とともにかかわる「チーム医療」だ。河合局長は「新病院だから、しがらみが少なく、大胆な仕組みが作れた」と振り返る。

                   ◆◇◆

 実は、こうした取り組みは、厚生労働省の医療費抑制策の流れを先取りしたものだ。厚労省は病院食のコストを「食費」と「栄養管理」に分けて、保険の対象は栄養管理に絞る方向だ。「厚労省が食費を『自宅や外食でも必要だから』と、すべて患者負担にするのは時間の問題」と、多くの医療関係者が指摘する。

 介護施設では昨年10月から、食費(食材費と調理費)が全額、入居者の負担になった。療養病床でも今年10月から食費が自己負担化される。急性期の病院食では、患者負担はまだ食材費だけだが、「介護並みになるのは時間の問題」(医療関係者)とみられる。

 厚労省は今春の診療報酬改定で、日常の食事時に温冷に配慮した食事を提供する「適時適温」と管理栄養士の配置を条件とした「特別管理加算」(1日200円)を、多くの病院が達成したとして廃止。新たに、管理栄養士が個々の患者に合わせて栄養ケアを行った際の「栄養管理実施加算」(120円)を導入した。

 栄養士の仕事内容に初めて認められた「120円」に値する仕事を、どう実現するかが今後の課題だ。

 高知医療センターの小厨房では、おかゆ、きざみ食のほか、利き腕が使いにくい人におにぎりを作ったり、スプーンを使う人には、食べやすいよう、ご飯を平皿に盛ったりする。「患者さんにとって家族に近い存在になりたい」(米原さん)との思いがこもる。

 高知県は県民1人あたりの医療費が全国で3番目に高い32万3000円(平成14年度)。療養病床が多く、平均入院日数も全国一長い。県立中央、高知市立の2病院統合でできた同センターも効率経営が課題だ。

 河合局長は「当院の平均入院日数は13日で急性期の一般病床の全国平均より低いが、さらにこの短縮につなげたい」とする。ただ、2週間程度の入院期間で栄養管理の効果を具体的に示すのは難しい。「退院後も正しい食事をしてもらうために、指導する仕組み作りが今後は大切です」と話している。

(2006/09/12)

 
 
 
Copyright © 2006 SANKEI DIGITAL INC. All rights reserved.