特ダネ情報 住まい 転職 為替
powered by goo

文字の大きさ:

 
 
 

 

icon

得ダネ情報

 
 
ゆうゆうLife
 

病院の食事が変わる(中)請求金額の計算方法 

 ■1食単位に変更、300億円の“節約”

 今春の診療報酬改定で、病院食の計算方法がガラリと変わりました。入院時に1日単位で請求されていた食事代が、1食単位になり、実際に食べた回数分が請求されるようになりました。食べなかった分を支払わないで済むのは当たり前のようですが、計算方法変更の背景には、財政当局と医療界の激しい攻防がありました。(中川真)

 今夏、胆石症が悪化して約20日間入院した横浜市の公務員、加山武さん(44)=仮名=は、病院の食事が不満だった。「ぜいたくは言えないけど、おいしくなかった。あれで1食260円の自己負担かあ。以前は食べなくても、1日780円かかったんだよね。食べないのに払わされるんじゃ、きっと、もっと腹が立っただろうね」。

 入院中、「退屈しのぎに」(加山さん)ベッドで入院案内を熟読したおかげで、加山さんはすっかり医療費の仕組みに詳しくなった。

                  ◇

 今春の診療報酬改定で、標準的な病院の基本的な食事代は「1日1920円(患者負担は780円)」から「1食640円(同260円)」に変わった。

 3月までは、たとえば、患者が午後に入院し、朝・昼食代を食べなかったり、検査や手術で食事をしなかったりしても、1日分の食事代が請求された。しかし、この4月からは請求されるのは食べた分だけ。食べなかった毎食260円分は負担せずに済むわけだ。

 計算方法の変更は、医療費抑制を迫る財務省や経済財政諮問会議と、減収を阻止したい医療界との板挟みになった厚生労働省がひねり出した「苦肉の策」(同省幹部)。

 食事代をめぐる財政当局と医療界の“バトル”は、前回改定から激しくなった。財務省は「給食を業者委託している病院は、1日に患者1人あたり、820円もの“差益”を得ている」との試算を公表。医療界はこれに「病院食は医療の一環。栄養管理の費用もかかり、差益は生じない」と猛反発し、食事代の減額は先送りされた。

 そこで、今年の改定では「単価を下げずに総額を減らす」(厚労省幹部)方法として、1日単位から1食単位への移行が打ち出されたのだ。

 厚労省はこの施策で、今年度、300億円もの国の負担が“節約”できると見込んでいる。

                  ◇

 食事代は今春の改定で大きく減額された。

 冒頭の加山さんは入院中、「選択メニューがあることを教えてもらえなかったので、そばやうどんを一度も食べられなかったんだ」と残念そうに話していたが、選択メニューの提供も、病院経営にはうまみがなくなった。以前は選択メニューを提供すれば、病院に1日50円の加算が認められたが、公的保険で賄う必要はないとして、加算は廃止されたからだ。

 腎臓病用の塩分控えめのメニューなど、病院食に欠かせない特別食への加算も、パック製品などが出回り、調理の手間が減ったとして、大きく減額された。

 川渕孝一・東京医科歯科大大学院教授(医療経済学)は「厚労省が医療本体の費用をこれ以上、削れなくなり、食事代を財源づくりの標的にしたのは明らか」と指摘する。ただ、川渕教授は260床ある病院の収支をもとに試算し、「食事代では約12%の減収になるが、給食部門は外来も含めた全収入の約4%に過ぎない。病院経営に大きな影響は与えないだろう」と分析している。

                  ◇

 多くの医療関係者が注目するのは「栄養管理実施加算」だ。個々の患者に栄養ケアをした場合に、日に120円が支払われる。

 実は、医療現場で最も深刻なのは、カロリーやタンパク質を十分に摂取できない「低栄養」の患者へのケア。10年前には「高齢の入院患者の4割に栄養不足のリスクがある」との調査も示された。

 医療制度に詳しい国立保健医療科学院の西村秋生国際協力室長は「栄養管理の責任の所在がはっきりした点は評価できる。栄養改善で入院日数が短縮したり、薬剤費が減少するなどの効果が示せれば、次回の診療報酬改定で点数がもっと上がるかもしれない」と、病院や管理栄養士らの奮起を期待する。

 しかし、看護師が書いた「栄養管理計画書」に管理栄養士が形だけサインする病院も多く、患者に密着した栄養ケアをする病院はまだ少ない。日本栄養士会の中村丁次会長は「1日120円なら100床で月36万円。管理栄養士を1人雇用して病棟に出せる。病院は栄養ケアの原資に使ってほしい」と訴える。

 今後は患者にとって、食事の味だけでなく、栄養ケアの取り組みも病院選びのポイントになりそうだ。

(2006/09/13)

 
 
 
Copyright © 2006 SANKEI DIGITAL INC. All rights reserved.