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病院の食事が変わる(下)

 ■患者満足度の追求

 ■油分控えめ、うまさに工夫

 入院時の食費に対する医療保険の適用範囲が今後、さらに狭まると、入院食は低コストを追求したものと、患者に高負担を求める代わりに、ぜいたくを楽しめるものと“二分化”してきそうです。こうした流れを踏まえて、味や見た目にこだわった食事で、患者の満足度を高めようという病院も増えてきました。最終回はこうした病院を紹介します。(中川真)

 「フランス料理は、素材のうまみやハーブの風味を生かせるので、塩分を抑えても、おいしくできるんですよ」

 東京都千代田区に昨年5月開院した医療機関「四谷メディカルキューブ」。栄養部の森由香子主任が紹介するのは、フレンチの名店「オテル・ドゥ・ミクニ」の三國清三シェフと献立を作った入院患者のための食事だ。院内のレストラン「ミクニ・マンスール」で調理している。

 「マンスール」の由来は、美しく、おいしい、低カロリー料理。1日1800キロカロリーの範囲内で、いかに高級感を出すかが勝負どころだ。

 「『1食500−600グラムの量がないと、満足感が得られない』というシェフの声も重視し、肉や魚は量を減らし、盛りつけを工夫。季節の野菜や果物をたくさん使っています」(森主任)

 仏料理は、バターや生クリームのこってりしたソースが特徴だが、ここでは網焼きや蒸し焼きが多い。レモン汁などの酸味で素材の味を引き出している。油はコレステロール値ゼロのアボカド・オイルを使う。

 メニューは洋・和食から選択でき、10日間で一巡する。ミクニ側は「制限をどうメニューに生かすか、逆に楽しんでいますよ」(レストランを運営するソシエテミクニの広報担当、長久保佳美さん)という。

 食事は追加料金なしで提供される。「病院にいることを忘れられる食事を目指している。保険収入だけで考えると、食事代は赤字だが、健康診断や差額ベッドの収入もあるのでトータルで見ている」(四谷メディカルキューブ)という。

 差額ベッドは全19床のうち9床で、3万円から10万円。こうした食事で他病院との“違い”をアピールできるのも、小規模だからこそ。

                   ★★★

 一方、大規模病院でも、入院食へのこだわりは高まっている。千葉県鴨川市の亀田総合病院(全862床)−。「Kタワー」と呼ばれる新病棟(364床)は全室個室で、1万2000円から5万円の差額ベッド代が必要。入院患者は病室のタッチパネルで、11種類の選択メニュー(400−1200円を追加)から、食事を注文できる。

 季節ごとに変わるメニューはカレー、パスタ、さしみなど。「最近は天ぷらそばが人気」(レストランの木村真司ゼネラルマネジャー)という。

 海産物や野菜など、地元の新鮮な食材にこだわっている。1食約700キロカロリーを上限に、「油分を控えること、見た目を楽しくすることを重視している」(同)。

 患者に多くの選択肢を提供しよう−という取り組みは、華やかな選択メニューだけでない。同病院は、固形物をかめない患者の「嚥下(えんげ)食」の多様化にも力を入れており、「症状に応じて約150種を提供できる」(田渡和子・栄養管理室長)という。

 亀田信介院長は「痛みを取るだけでなく、良質な食事も患者さまの精神的な健康に貢献できる。ペットに会いたい人にスペースを用意するとか、いろいろな努力が医療の高い質につながる」と入院環境の向上に意気込む。Kタワー各階には入院中でも家族や友人と食事できるよう、ダイニングルームも完備されている。

                   ★★★

 こうした豪華な病院食は今後も増えると予想される。一方で経費節減を優先し、「『コンビニ弁当をそのまま提供したい』と考える病院経営者もいる」(医療関係者)という。食事の質は医療の質と必ずしもイコールではないが、「病院の居心地」には一層、格差がつく時代になりそうだ。

 東京医科歯科大大学院の川渕孝一教授(医療経済学)は「財政難で医療費負担の軸はいずれ、公的保険から個人の責任による民間保険へ移っていくだろう。病院食はその予兆だ」と指摘する。

 医療費の抑制にどうしても歯止めがかからなくなったとき、“手厚さ”を求める患者には、診療そのものでも食事と同様に、「選択メニュー」が当たり前のように示される時代が来るのかもしれない。

(2006/09/14)

 
 
 
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