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お産が変わる?(1)医師と助産師の溝



 ■“危機”回避へ連携模索

 産科医不足で、分娩(ぶんべん)場所が激減しています。そんな中、横浜市の産科病院では8月、看護師による無資格診療が問題となり、産科医と助産師が対立するなど、混迷の度合いが深まっています。産科医、助産師、厚生労働省の三者は「助産師の活用」で一致していますが、戦後の分娩体制激変のつけは容易に取り返せそうにありません。選択眼を養うなど、自己防衛も必要な時代といえそうです。(北村理)

 「うちでは、医師に頼り切る分娩は限界にきていた。医師らの要請もあり、助産師の活用の仕方を見直そうと思っていた矢先に事件が起きてしまった」

 資格のない看護師らに妊婦の子宮口の開き具合を見るなどの「内診」をさせたとして、保健師助産師看護師法(保助看法)違反容疑で8月末、神奈川県警の家宅捜索を受けた堀病院(横浜市)の堀健一院長はその後、地元医師会でこうもらしたという。

 厚労省の見解では、妊婦への内診などの助産行為は、医師か助産師しかできない。しかし、内診を看護師が行う産科医療機関は少なくない。

 事件後、堀病院や同様の違反があった4つの産科診療所を調査した横浜市医療安全課は、「堀病院には6人の助産師がいたが、分娩より保健指導を担当していた。4つの産科診療所でも、助産師を雇ったものの、結局、辞めてしまったりして、補充できずにいたことが違反の引き金になった」とする。

 助産師が本来の業務である分娩介助を行っていなかったことからは、医師と助産師の連携がうまく取れていなかったことが推測される。

                    ◇

 背景には、戦後、米国の指導で、当時98%が助産師による自宅出産だった日本の分娩が不衛生などとされ、医療機関での分娩に大きくシフトしたことがあるようだ=グラフ左。

 これにより、5万人いた助産師が半減し、助産師の多くが看護師としても働ける病院に転じた。代わって、産科医療機関では看護師が分娩補助をしてきた。

 現在は、99%が医療機関での分娩で、日本産婦人科医会(坂元正一会長)は「日本のお産文化は百八十度転換しており、後戻りはできない」という。

 こうした事情を反映し、ここ数年、厚労省が内診に関する見解を示すたびに、医師側と助産師側が激しく対立してきた。

 医師側にすれば、「戦後、分娩環境が激変するなか、長年の慣例でやってきた看護師の分娩補助を一方的に否定され、産科医や助産師不足に拍車がかかったのでは、産科経営はできない」というのが、本音だ。

 対する助産師側は「助産師という独立した制度が法律で保障されているのに、それを侵すのは許されない」。

 お互いの存亡をかけた、いわば“縄張り争い”だけに、「全く解決の糸口がみえていない」(厚労省看護課)状態だ。

                    ◇

 現場が混乱している間も、産科医の減少は止まらない。

 日本産科婦人科学会(武谷雄二理事長)によると、登録会員の半数以上が50代以上で、今後10年以内には引退してしまう。

 堀病院のある神奈川県では、同県産科医会の予測によると、今後15年間に、県内の分娩の3分の1にあたる約5000件に対応できなくなるという。

 日本産婦人科医会では「訴訟などでトラブルの多い産科医になりたくないという時代では、産科医の身分を保障し、減少速度をゆるめるほか、数を増やす手だてはない」とさじを投げる。

 現在、年間分娩数は全国で約100万件だが、その半数はいずれ、産科医療機関で扱えなくなる可能性があるという。

 同医会は、こうした“危機”回避策として、(1)厚労省が看護師も内診ができるよう、見解を見直すこと(2)医師と適切に連携できる助産師を増やすこと−などを挙げる。

 内診問題はともかく、助産師を増やすことが緊急の課題であることは、助産師側や厚労省とも一致している。助産師が再び脚光をあびれば、お産のあり方が変わる可能性もある。

 しかし、助産師も戦後の衰退から脱せずにいる。

 同医会は「国民自身が病院まかせ、助産師まかせの分娩ではなく、こうした医療の現状を知り、情報を集めて、自分の状態にあった、適切な分娩場所を見つける必要があるだろう」と強調している。

(2006/10/23)

 
 
 
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