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お産が変わる?(3)経験と判断力が課題

 ■求められる助産師の増加

 産科医の負担を軽減するために、厚労省は助産師を増やす施策を考えています。都市部では助産所を利用する母親は増えていますが、独立した開業助産所は多くありません。また、戦後の分娩(ぶんべん)環境の激変で助産師自身、分娩経験が減っており、緊急時の判断力が身に付いていないケースがあるのではないかとの指摘もあります。助産師による分娩を軌道に乗せるには、まだまだ、課題が多いようです。(北村理)

 「一生で一番、幸せな時でした」。神戸市東灘区の主田(ぬしだ)朋子さん(32)は、助産所での出産をこう振り返る。

 主田さんは、長女の眞子ちゃん(5)を病院で出産。その後、アレルギーに悩んだ朋子さんは「自然な出産にひかれ」、2人目の航大(こうた)君(2)は、自宅近くの助産所で産んだ。

 「病院では、分娩時だけ助産師がついてくれたが、助産所では産前産後を通じて、妊婦が孤独になる時間はない。絶えず助産師さんがついてくれるし、自らの出産・育児経験も話してくれる。こうした何げない作業の積み重ねが、不安を解消してくれた」

 航大君が生まれたとき、へその緒を切ったのは眞子ちゃん。一番泣いたのは朋子さんの母親の惠子さん(58)だった。団塊の世代の惠子さんは第2次ベビーブームで朋子さんを産んでいる。

 惠子さんは「自分の経験は出産といえるようなものではなかった。流れ作業的で、工場の機械みたいな扱いだった」と話したという。

 朋子さんは「家族関係を見直す良い機会になった。母親としての自覚と自信が増した」という。

 日本の助産所分娩は平均、1%だが、都市部では2〜3%と増加している。

 主田さんが航大君を産んだのは昭和36年開業の毛利助産所(神戸市)。老舗だけに、全国から助産師が研修にくる。阪神大震災で全壊したが再建し、これまで1767人の赤ちゃんを取り上げた。

 院長の毛利種子さん(78)は「出産するのは母親ですから、より良い自然な出産に備え、母体の心身を整えるのを手助けするだけ。母体が安定すると、自然な分娩がスムーズに行われる。自然分娩は苦痛はあっても、産後の強い母性発揮につながる」。

 主田さんの場合、玄米食、冷え性対策、骨盤体操などを勧められ、産前産後の体調を整えた。「分娩時の出血もほとんどなかった」という。助産所では、異常がないかぎり内診もしない。

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 日本助産師会(近藤潤子会長)はガイドラインで助産師による出産は、正常分娩に限ることを決めている。お産のリスクが高い帝王切開の経験者などは対象外だ。それでも、出産では事前予測ができないトラブルもある。異常に転じたときの分岐点を早期に見極めるためには、助産師の卓越した観察力と母親とのコミュニケーション能力が必要だ。

 産科医不足を受けて、厚労省は看護師への教育機会の拡大や、仕事に就いていない助産師のリクルートなどで、助産師の掘り起こしを始めた。

 しかし、毛利さんは「戦後、国立病院にいたが、助産師はプロ意識を持ち研究熱心で、医師側もそれを認めていた。しかし、その後の分娩環境の変化で、助産師教育の伝承がうまくいってはいない」と指摘する。

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 助産師教育を研究している東京慈恵医大の茅島江子教授(母性看護学)によると、助産師による分娩が主流だったころに比べると、現在は「当時の半分以下の教育レベル」だという。

 現在、助産師になるには看護師の教育を経て、助産師の教育を受ける。このため、「各大学では、国が定めている助産師の教育課程を看護系の教育内容と兼ね、教育期間を短縮しているケースが多い」という。

 助産学の教育カリキュラムは昭和26年に実習も合わせ1350時間だったのに対して、平成8年では720時間にまで落ち込んでいる。

 開業助産所の減少で、実習の機会も限られている。資格を取っても、そのまま病院勤務になってしまうケースが多い現状では、実際に分娩を取る経験が少なく、安全か危険かの判断力が育たないとの声もある。

 茅島教授は「毛利さんのように優れた助産師は異常出産、正常出産の見切りが早い。そうした助産師は前線を退きつつあり、技術の伝承が困難になりつつある。助産師の数は増えても、判断力のある助産師をどれだけ育てられるか。課題は多い」と指摘する。

 主田さんは12月にも3人目を出産予定だ。今回は、長女の通う幼稚園児も招待した公開出産を考えている。主田さんは「お産というものはこういうものだということを今のうちから知ってほしい」と話している。

(2006/10/25)

 
 
 
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