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お産が変わる?(4)地域に助産施設が欲しい

 ■母親たちも動き出す

 分娩(ぶんべん)場所の不足を解消するため、助産師の存在が注目されています。これまで、分娩に早めに医療介入をする医師と、自然分娩を志向する助産師の対立はありましたが、医師と助産師が自然分娩でうまく共存する産科医院も出てきました。また、地域でのお産を確保しようと、母親たちも動き出しています。(北村理)

 横浜市金沢区にある「池川クリニック」。産婦人科医の池川明さん(52)が経営する医院だが、正常分娩はほとんど、12人の非常勤助産師が担当する。看護師はいない。

 開業は平成元年。当初は、「一般的な産科医と同様、陣痛促進剤などで医療介入をして、無事出産を終えることだけを考えていた。母子にとってのお産の意味なんて考えもしなかった」と、池川さんは言う。

 しかし、ある時期、赤ちゃんは無事生まれたものの、母親の出血などで救急に対応できる医療機関に搬送しなければならない事例がたて続けに起きた。

 当時は、「月に1回はそうした状況だった。自信を喪失して、いっそのこと、自然に任せようと開き直った」。すると、搬送しなければならない事例はパッタリ途絶えたという。

 今でこそ、陣痛促進剤を正常分娩に使う産科診療所は減ったが、池川さんは極力、医療介入をしない分娩にこだわる。

 「自然に任せるということは、母体に不安を与えないこと。しかし、医師1人で長時間かかる自然分娩に付き添うのは限界がある。同じ女性である助産師が常に付き添うことで、妊婦さんの不安は軽減され、より自然な分娩がしやすくなる」

 しかし、池川医師が助産師主体の分娩体制を築けたのは、ここ2年のこと。当初は、「募集しても、助産師が来なかった。ナースバンクに問い合わせたら、『(激務の)開業医のところには行きませんよ』とまで言われた」。

 助産師にすれば、分娩方針をめぐって産科医院で医師と対立すれば、辞めざるを得ない。しかも、助産師の少ない産科医院は激務だ。

 それでも、開業助産所の紹介などを受けながら、少しずつ助産師を増やした。今は分娩を任せることで、「やりがいを感じて、助産師が定着した」と話す。

 ただ、池川医師は助産師を確保する経済的な困難さも指摘する。公立病院では、助産師は看護師より月に1万円高いだけだが、病院によっては、分娩1件につき、数万円を支給するケースもある。

 助産所では、常勤助産師1人に年間約600万円前後を支払う所もあるという。個人医院では、勤務がきつくなるためか、「それ以上を求められることが多い」。24時間シフトを組もうとすれば、「最低5人は助産師が必要だから、年3000万円の人件費を覚悟しないといけない」。負担は分娩料金に跳ね返り、50万円以上になる。一般的な産科医院での分娩費用よりも10万円前後高い。

 池川さんは「助産師が復権を求めるなら、職責や待遇の水準を明確にすべきだ。でないと、世間に正しく認知されず、医師との対立も解消されない」と指摘する。

 「自らアピールすることで、欧米の助産師は正常分娩に関しては医師とほぼ同等の権利を勝ち取ってきた」というのは、加納尚美・茨城県立医療大学助教授(看護学)だ。

 日本に病院分娩を導入させた米国は1973年、助産師団体が医師会とともに共同声明を出し、自然分娩を支える助産師業務の重要性と安全性をアピール。結果、63年にわずか275人だった助産師が現在、8000人に、分娩数は75年の約2万件が96年には23万件に増加した。

 北米や西欧、オーストラリア、ニュージーランドでは現在、正常分娩は助産師が扱う。「欧米では、地域でのお産を確保するために、助産師が『バースセンター』を運営するケースが増えている」(加納助教授)

 日本でも、産科が閉鎖された地域で、主婦らが地元自治体に働きかけ、「バースセンター」を建設しようという試みが始まっている。

 長野県松川町では、地域のお産を支えてきた下伊那赤十字病院で分娩を休止した。このため、地域の主婦らが、現在は看護の仕事をしている9人の助産師と、近隣の産科医と連携し、バースセンターを作ろうと計画している。年間250から300件の分娩に対応し、産後ケアや母乳指導なども行う、地域に開かれた“助産施設”構想だ。

 この運動を進める主婦、松村道子さん(34)は「周辺住民の多くは、赤十字病院で生まれた。そこでお産ができなくなれば、子供を産まなくなるなど、地域の生活そのものが変化を強いられる。地域のお産は地域で支えたい」と話している。

(2006/10/26)

 
 
 
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