特ダネ情報 住まい 転職 為替
powered by goo

文字の大きさ:

 
 
 

 

icon

得ダネ情報

 
 
ゆうゆうLife
 

糖尿病でも食豊かに(上)

 □知食の会代表幹事・田中範正さん(68)

 ■美食への思い断てず 低カロリーグルメ 病院の「おせち」ヒント

 ハイテク電子コンサルタントだった若いころからの美食により、糖尿病合併症の壊疽(えそ)で足の指を切断した田中範正さん。それでも「うまいもの」への思いを捨てられず、ホテルのシェフらと研究を重ね、「360キロカロリー、塩分2・2グラム」で食べられるフレンチのフルコースを開発しました。今は「知食の会」代表幹事として、低カロリーメニューの普及に取り組んでいます。まずは、活動のきっかけとなった以前の暴飲暴食ぶりや入院生活で学んだことを聞きました。(中川真)

 当時はそう思っていなかったが、糖尿病になる前の食生活は滅茶苦茶だったですね。身長が180センチ以上あるし、ステーキだったら脂身たっぷりの400グラムのニューヨーク・カット。脂身のないヒレなんて、冗談じゃないよという感じかな。ただし、トンカツはヒレ専門。そんなふうにこだわっていました。

 若い時の不摂生は、大して問題じゃないと思っています。だけど、糖尿病になりたくないと思ったら、44、45歳以降の食生活はきちんとしないといけない。私の場合、そこがダメだった。

 私はフランス料理が大好きで、ホテルのシェフに「ぼくには、1度出したものは出さないで」と言っていたくらいです。ですから、10日前に予約し、ベルギーあたりから食材を調達してもらったり…。仲間と当たり前のように、そんなことばかりやっていました。

 暴飲暴食の「飲」の方は、主に六本木周辺でした。女房が亡くなった後は「芋洗坂の独身会長」と称して、あちこちの店に行きましたね。酒はもっぱらウイスキー。「ダルマさん」とか。そこでもたくさん食べました。ぼくらの年代は、そういう付き合い方をしたものですよ。その後で、新宿のゴールデン街に行って午前1時、2時まで、というようなことも多かったですね。

                   ◆◇◆

 糖尿病とわかったのは平成5年の秋口。右足の中指と人さし指の間が茶色くなり、最初は自分も診療所の医師も、「水虫がひどくなったかな」と思っていました。ところが、変色が広がり、腫れもひどくなる。12月初旬、医師に「大学病院を紹介します。壊疽です」と言われたときは、本当に驚きました。

 サラリーマンなら、定期健康診断で血糖値の上昇に気付いたと思うが、私は独立していたし、健康だと思っていたから、健診を受けなかった。これは本当に失敗だった。会社の健康保険組合は社員が大病すれば、出費が多くなるから、「健診を受けろ」と言うんだが、私は経験上、しっかり受けた方がいいと強調したいですね。

 知人の紹介で、年の暮れにNTT関東逓信病院(東京都品川区)に入院し、右足の中指全部と人さし指の一部を切断しました。感覚がないから、手術で麻酔はしませんでした。断面がマグロの中トロのようで、しばらくは寿司屋に行っても食べられませんでしたね。

 糖尿病ですから、病院食は「こんなもん、食えるか」っていうような中身。ところが、年が明けて正月になると、おもちが2つ入ったお雑煮と、わずかだったが、黒豆など、おせちのようなものも出た。大変な感激でしたよ。「統計的にはあと2年半」といわれた命でしたから、もう、涙が流れたよ。

 正月が終わると、また切り干し大根とか、ゆでたキャベツとか、単純なものになっちゃった。でも、私は正月の経験から「研究すれば、おいしいものが食べられる」と痛感し、病院の地下の本屋で糖尿病の食事とか、栄養の本とかを買い込みました。どれも、それまで読んだことがないような本ばかりですよ。

 最初にわかったのは、タンパク質や糖質の熱量は「重さ(グラム)×4」キロカロリー、油は「×9」キロカロリーという公式です。次に、肉は炭水化物つまり糖質ではないから、食べても血糖値は上がらないとわかった。逆に、ご飯は控えめにしよう、ということになるんです。

                   ◆◇◆

 何たって、うまいものが食べたい。もちろん、糖尿病でも大丈夫な食事です。ホテルに食いに行こうとしたが、1人、2人のために特別に低カロリーのメニューは作れないという。「最低20人は集めて」というので、仲間を20人集めましたよ。

 メンバーは、仕事で仲良くなった大手電機・通信などの幹部が多かったですね。「田中も長生きはできないだろうから、今のうちにわがままを聞いてやろう」という気持ちだったんでしょうね。

 一応、医師の許可は得ましたが、病院を抜け出して、仲間の送り迎えでホテルや和食の店に何度も通いました。これが、「知食の会」の活動に発展していくわけです。

                    ◇

【プロフィル】田中範正

 たなか・のりまさ 昭和13年、石川県輪島市生まれ。東海大工学部を卒業後、東洋通信機工業のサラリーマンを経て独立。ハイテク電子コンサルタントとして、大手企業の新規事業立ち上げにかかわる。平成5年、糖尿病合併症(壊疽)で緊急入院。右目の視力も失う。闘病生活で「食」の重要性に気付き、有志と「知食の会」を設立。低カロリーのフルコースメニューなど、生活習慣病の人も楽しめるグルメを提唱している。著書に「糖尿病のみなさん、360kcalのフルコースを召し上がれ。」(主婦と生活社)がある。

(2006/11/02)

 
 
 
Copyright © 2006 SANKEI DIGITAL INC. All rights reserved.