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分かる!差額ベッド(上) トラブル頻発、返還例も

 入院経験のある人なら、「差額ベッド」という言葉を聞いたことがあるでしょう。個室などに入る際に、保険がきかず、別に費用負担が必要になる部屋や病床のことです。しかし、こうした部屋を利用しても、差額ベッド代を支払わないで済むケースもあり、仕組みのわかりにくさから、トラブルも出ています。(柳原一哉)

 60代の橋本英子さん=仮名=が急性白血病のため、最初に大阪府内の総合病院で治療を受けたのは平成8年のことだった。その後、治療のための入院は7回、計383日に上った。

 個室を計266日間利用した。抗がん剤による免疫力の低下で、感染症の危険性が高まるため、個室に入ることが求められたからだ。請求された差額ベッド料は合計、約400万円に上った。

 しかし、退院後、医療に関する患者相談などに乗るNPO(民間非営利団体)、「ささえあい医療人権センターCOML」(コムル)の活動で、「(病院は)治療上の必要がある場合、差額ベッド料を患者に負担させてはならない」とする厚生労働省の通知があることを知った。

 橋本さんは「治療で個室を利用したのだから、差額ベッド代を負担しなくてもよいのでは…」と病院に尋ねるとともに、支払った差額ベッド料の返還を申し出た。

 病院側は、橋本さんが差額ベッドを利用する際に、「同意書」に署名したことを理由に返還を拒否した。

 橋本さんは大阪府に相談。府が病院に指導に入った結果、同意書の有無にかかわらず、差額ベッド料は全額、返還されることになった。橋本さんは「通知や同意書の意味を知っていたら、こんなことにはならなかった」という。

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 差額ベッド料が必要な部屋は、正式には「特別療養環境室」と呼ばれる。患者の中には、差額ベッド料を払っても、静かな個室で過ごしたい人も少なくない。

 しかし、「治療上の必要」から差額ベッドに入る場合、差額ベッド料を負担する必要はない。病院側も請求はできない決まりだ。

 厚生労働省によると、「治療上の必要」とは、感染症になる可能性が高かったり、終末期のため苦痛緩和などが特に求められる場合などだ。患者の意思が反映しないから、差額ベッド料はかからない理屈だ。

 ところが、橋本さんのように、治療上の必要があって差額ベッドに入ったのに、病院側が患者に同意書を求めることが多々ある。署名して出してしまうと、差額ベッド利用の希望があったと解釈される。病院側は差額ベッド料を請求し、患者は求められるままに支払ってしまう。後で払う必要がなかったことに気づいて問題化したのが橋本さんの例だ。

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 こうした事例を含め、コムルには差額ベッドに関する相談が多数寄せられ、600件以上の相談があった年も。東京都の「患者の声相談窓口」にも、差額ベッドに関する相談・苦情が平成16年度に計146件あり、いっこうに後を絶たない。

 コムルの山口育子事務局長は「橋本さんの例でいえば、差額ベッドが治療上必要だったなら、同意書を取ること自体が不適切。しかし、患者を差額ベッドに入れる際はどんな場合でも、同意書の提出が必要と誤解している医師や看護師が目立つ。現場が仕組みを理解していないからトラブルが絶えない」と話す。

 実際、コムルが開く患者向けの勉強会に参加した医療スタッフが、差額ベッドの仕組みについて「知らなかった」と率直に明かすことも少なくないという。

 差額ベッドへの入院が長期化すれば、患者の負担は当然、重くなる。経済的な理由で治療を控える患者が出ないようにするためにも、医療現場には正しい理解が求められそうだ。

 一方、患者の側にも課題がある。署名した覚えがないのに差額ベッド料を取られたと相談にくる患者でも、再確認を勧めると、「すでに同意書を提出済みだったというケースは意外に多い」(コムル)。

 入院の際は病気のことで頭がいっぱいになってしまう面はあるが、「同意書の署名は契約を交わすのと同じ。理解があいまいなまま署名するのは、病院への『お任せ』意識が根底にあるためでは…」と山口事務局長は指摘する。

 差額ベッドを巡る問題は、根に医療機関と患者の意思疎通の不足がありそうだ。インフォームド・コンセント(十分な説明と同意)の在り方を、厚労省の有識者検討会が論議し、報告書をまとめたのは、10年以上も前。費用などについての情報も含まれるべきだと指摘された。しかし、インフォームド・コンセントが急速に広がるなか、費用についての説明と同意には、なお改善の余地がありそうだ。

(2006/11/06)

 
 
 
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