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分かる!差額ベッド(下)個室志向…増収の柱

 個室などの差額ベッドは、病院にとって経営上のメリットで、全国的に数も増えています。国立大学の法人化を機に、収支改善を求められた東京大学医学部付属病院(東京・本郷)も、差額ベッドを設けて稼働率を上げ、増収を実現しました。しかし、収支の改善が患者負担を前提にしていることに、疑問の声もありそうです。(柳原一哉)

 東京都の塚田信夫さん(66)=仮名=が脳梗塞(こうそく)で近くの公立病院に入院したのは52歳のときだった。

 重病だけに、長女の由美さん=同=ら家族は「付き添いたい」と個室を希望した。だが、「重症のため、看護師の目の届きやすいところがいい」との理由で、ナースステーションに近い6人部屋を割り当てられた。

 塚田さん自身、点滴の針を無意識に抜いてしまう恐れがあったので、それも無理はなかった。しかし、由美さんは「もしや最期になるのではと思い、ずっと付き添ってやりたかった。実質は何もできないが、家族も一緒に闘病できる環境が欲しかった」のが本音だ。

 家族は結局、規定の面会時間が終わった後もこっそり病院の屋上から病室の窓を夜通し見つめ続けたという。峠を越えた後も毎日、通院。しばしば、面会時間を超えてしまい、婦長に心付けを渡して特別に計らってもらったという。

 約3週間の入院だったが、とうとう大部屋から出られなかった。「大部屋は、状態の悪い別の患者さんの重苦しい雰囲気も伝わり、ついつらくなることもあった」と、由美さんは明かす。

 しかし、差額ベッド料がかかることもあって、何が何でも個室がいいと考えているわけではない。「知人が最近、都内の病院に入院したが、差額ベッド料のかかる個室を盛んに勧められるので、断るのが大変なほどだとこぼしていた。個室を選ぶかどうかは病気の重さ次第では」と話す。

                   ◆◇◆

 差額ベッドを利用するか否かは、患者の疾病や年齢、家庭の経済事情にもよるので、一概には言いにくい。ただ、塚田さんのように、個室への要望が高まっているのは確かだ。ニーズに応える形で増収につなげ、経営に役立てる病院は多い。

 東大医学部付属病院もその1つだ。平成13年稼働開始の「入院棟A」(1045床)には、特別室15床▽個室122床▽2人部屋334床−の計471床と、半数に迫る差額ベッドがある。今村知明・企画経営部長は「(差額ベッドからの)増収で年に3億〜4億円に上る」と明かす。

 当初は稼働率が低く、苦戦した。「中でも25万〜10万円だった特別室は稼働率が50%以下で、赤字の元凶だった。閉鎖を検討したほどだ」(今村部長)という。このため18万〜8万円に値下げして利用を促し、稼働率を80%以上にまで上げた。

 “新棟効果”による患者数増加もあるが、医療現場でも差額ベッドを積極的に勧めてきた結果、利用患者は目立って増加。今では、個室はほぼ満床だ。日額1万円だった価格を、1万6800円に値上げして増収につなげてきたという。

 今村部長は「差額ベッド(の増設)は、増収につなげる一番打ちやすい手だった」と打ち明ける。

                   ◆◇◆

 背景にあるのは、16年度の国立大学の法人化だ。東大病院の場合、国の運営費交付金が法人化以降、毎年5億円ずつ切り下げられている。「年間5億円の利益を出すためには、11億円の増収が求められた」(今村部長)という。

 5億円は、教官50人分の年間人件費に相当するが、毎年、人員削減をするわけにはいかない。このため、患者負担を求めるのと引き換えに、ニーズの高い個室ベッドを収入の柱の一つに据えたのだ。

 必要な医療サービスは日本では、ほぼすべて、保険診療で提供される。診療報酬は決められていて、疾病によって収入はほぼ決まってしまうから、病院が収入を上げるのは容易でない。保険外収入になる差額ベッド料は病院にとって、増収の数少ない選択肢だ。

 東京医科歯科大学大学院の川渕孝一教授(医療経済学)は「差額ベッドが増える背景には、(厚生労働省の方針で)在院日数が短期化し、患者が『少しなら払える』と考えることや、患者の『個』志向の強まりがある。しかし、入院先の病院に差額ベッドしか空いていないときは、患者が入院をためらうこともあるだろう。(医療にかかる)機会の平等をどう担保するかを、もっと議論すべきだ」と話している。

(2006/11/08)

 
 
 
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