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どうなる療養病床(上)忍び寄る再編のしわ寄せ

 ■“選別”される入院患者

 施設に空きがなく、在宅介護も難しい−。主にこうした高齢者が身を寄せる「療養病床」(老人病院)は全国に医療型、介護型をあわせて38万床ありますが、政府は医療費削減のため、6年後には15万床まで減らす方針です。10月には全療養病床で食費などが自己負担になりました。しかし、退院しようにも、施設や在宅支援は不十分。病院が生き残りをかけて入院患者に対応するなか、行き場を失う患者も出始めています。(中川真)

 「今後、療養病床をやめることになるかもしれません。今のうちに、介護施設などの受け入れ先を探してください」

 埼玉県に住む50代の主婦、田中景子さん=仮名=は先日、義母(79)が入院している病院から呼び出され、相談員に“宣告”された。その後、「退院を求められたときには応じます」という趣旨の念書に署名をさせられたという。

 義母は4年前に脳血管疾患で倒れた。救急車で運ばれた病院から数カ月でリハビリ病院に移されたが、その後、転院。医療型の療養病床に入ったが、しばらくして介護型の療養病床に移された。

 「医療型」「介護型」といっても、「おむつ代の負担方法や医療スタッフの数を除くと、サービスは実質的に同じ。医療保険と介護保険のどちらを使うかの違いにすぎない」(厚生労働省)という。

 今の病院は2カ所目の療養病院だが、入院後、やはり医療型から介護型に変わった。病院側の都合で病院や病床を転々としている様子が見て取れる。

 義母は左半身が不自由で口から食べられず、経管栄養に頼る。要介護度は最高の「5」だが、「医療区分」は最低の「1」。医療サービスはさほど必要でないと判断されたわけだ。

 田中さんは「病院は『(このまま入院させておくと)収益面で厳しくなるので、理解してほしい』とはっきり言うんです。病院の事情はわかるんですが…」と、やりきれない様子だ。

                   ◇

 厚労省が「療養病床の再編」を打ち出して、まもなく1年。平成23年度末までに13万床の「介護型療養病床」を全廃し、25万床の「医療型」も15万床に削減する計画だ。

 背景には、医療サービスをさほど必要としない高齢者が、施設代わりに、療養病床に身を寄せている「社会的入院」がある。病院だから診療が伴い、患者1人の費用は介護施設の約5割増し。これが国や健康保険の財政を圧迫しているというわけだ。

 厚生労働省は7月、医療型療養病床の患者に区分を設けた(介護型は昨年10月に実施)。そのうえで、病院に収入として入る診療報酬を、医療必要度が高い「医療区分3」の患者は従来の約1・5倍に上げ、医療必要度の低い「医療区分1」の患者は7割程度に下げた。「1」の患者を入院させておいても、「3」の患者の半分程度の報酬にしかならない。

 厚労省は「以前は、診療報酬が均一だったため、病院が軽度の人を集める傾向にあった。報酬に差をつけて、医療の必要性が高い人が入院しやすい環境をつくった」(医療課)と意義を強調する。

 実際、療養病院では患者の“選別”が始まっている。田中さんの義母のケースもそうだ。

 義母は要介護度が最高の5で、現在は介護型にいるから問題はなさそうだが、病院から敬遠されることについて、ある医療関係者は「病院が将来、生き残りをかけて医療型に転換したいと考えているのでしょう。だから、医療区分が低い患者を今から減らしておきたいのでは…」と推測する。

                   ◇

 厚労省は、療養病床の介護施設などへの転換を進めている。病状が安定している田中さんの義母も、施設に入所できれば、支障はなさそうだ。

 だが、それも簡単ではない。田中さんは「何カ所もあたりましたが、介護施設では経管栄養や胃ろうの人を容易に受け入れてくれません。自宅は集合住宅で在宅介護も難しい。本当に困っています」と頭を抱える。

 「医療区分」に疑問を抱く医師も多い。石川県かほく市の「二ッ屋病院」は約200床の療養病床をもつ。松田昌夫副院長は「医療区分1でも、医療サービスが必要な患者は多い。例えば、脳梗塞(こうそく)になっても、30日を過ぎると、症状に関係なく医療区分は『1』。たんを自力で出せず管に頼る人は、1日7回までだと『1』だが、8回以上だと『2』で、合理性に乏しい。退院を促す兵糧攻めだ」。

 厚労省は全国の療養病床の実態を調査中で、結果をふまえて、介護施設への転換を支援する方針だ。しかし、松田氏は「患者の退院は始まっているのに、『6年後までに受け皿を作る』では、あまりに無責任」と指摘する。

 「社会的入院」の是正は重要課題だが、報酬をめぐる病院の動きに、施設や在宅介護の拡充が追いつかず、田中さんのような家族を困惑させている。

(2006/11/22)

 
 
 
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