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どうなる療養病床(中)国の方針と逆行、計画頓挫

 ■過疎地の空き病床、老健へ

 高齢者が長期に入院する療養病床の縮小は、地域医療にも複雑な影響を与えています。過疎化や医師不足による患者減で赤字が続く病院のなかには、一般病棟を療養病床に転換して、収益を上げようと考えていたところもありました。しかし、突然の療養病床縮小の動き。国の方針と“逆行”するアイデアは暗礁に乗り上げます。制度と現実の間で揺れる町を訪ねました。(中川真)

 日本海に面し、鳥取県にほど近い兵庫県香美町は、人口約2万2300人。今月6日に松葉カニ漁が解禁になり、1年で最も華やぐ季節に入っている。

 町の中心地にある「公立香住総合病院」は、1階が外来、2、3階が入院病棟(計102床)の3階建て。しかし、3階(52床)は4月から閉鎖されたまま。院内の雰囲気も心なしか寂しい。

 「鳥取大から40年間、医師が派遣されていますが、研修医制度の導入で大勢が引き揚げてしまい、今は半数の7人しかいません。産科は2年前に閉鎖し、町内では出産できないんですよ」

 藤原久嗣町長が説明する。重症患者は周辺都市の大病院に流れ、ベッドの稼働率は50%前後に下がってしまった。医師不足は地方各地に共通する問題。同病院では、患者離れによる昨年度の赤字は約2億9000万円、累積では約27億円に達した。

 病院を存続させたい町は昨年秋、3階の一般病床を療養病床に転換して事態を打開しようと、改修計画づくりなどの準備に入った。「町は高齢化率30%。介護施設の入所待ちも多く、ニーズは十分ある」(藤原町長)と踏んだからだ。

 ところが、その直後の昨年末に、厚生労働省は「療養病床縮小」の方針を打ち出した。強引に押し切ることもできず、計画は頓挫。今年10月に衣替えするはずだった3階の病床は、4月から閉鎖されたままだ。

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 「医師引き揚げ」「療養病床再編」がダブルパンチで直撃した香住総合病院。町民は、現状をどう見ているのか。

 86歳で寝たきりの妻を見舞いに来た89歳の男性は「発熱で入院した家内の見舞いに来た。このまま長いこと診てほしい。病院なら安心だし、『3階』を使ってずっと預かってくれたら、本当に助かるのだが…」と話す。

 妻と2人暮らしで、在宅介護を続けてきたが、「私も年で、風呂には入れてやれないので、週2回、ヘルパーが来てくれるが、食事や下の世話は私が全部やっている。もう、疲れ果てたよ」と訴える。

 現在、稼働している2階の50床は、急性期病床だが、常時40人程度の入院患者の約8割を、要介護の高齢者が占める。

 病院の再建策を検討する亀村庄二理事は「症状が改善すれば、退院を促しますが、家族には『もっと、置いておいて』と頼まれる。忍びないですね」と話す。

 町によると、介護施設への入所待機者は81人。このほか、75人の町民が町外の療養病床や介護老人保健施設に入院・入所している。

 住民からは、「頑張って在宅介護するが、水産加工やカニ民宿がかき入れ時になる冬だけ、施設や病院で預かってほしい」との要望もあるという。

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 町が今、目指しているのは、3階を老健施設に改造し、病院と介護施設を併設させる案だ。兵庫県と折衝を続けているが、ここでも高い壁が立ちはだかった。介護施設は市町村が3年ごとに定める「事業計画」に沿って新設する決まり。現計画は、今年度始まったばかりで、すぐに老健施設にするには、計画変更が必要だ。

 兵庫県高齢福祉課の担当者は、「香美町が事業計画を変更するのは難しいでしょうね」と話す。

 事業計画は市町村が自主的に作るが、国は要介護度2〜5の住民の施設入所率(平成16年度は41%)を下げ、将来は37%を超えない計画にすることを、市町村に求めている。ところが、香美町の施設入所率は50%を超える。すでにオーバーしている上に、さらに施設を増やせば、介護保険料も引き上げなければならない。

 藤原町長は来月、今後の方針を議会や町民に明らかにする。来年度から2年間は、3階を暫定的に療養病床に転換。次の介護事業計画に入る平成22年度に、老健施設にする方向だ。

 「医療費抑制には同感だが、最低限の地域医療は守っていきたい。国の政策には、都市と地方を同一視したものがあまりに多すぎる」。とはいえ、地方にも既存の施設を有効に生かし、無駄のないサービスを展開する知恵も求められている。

(2006/11/23)

 
 
 
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