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どうなる療養病床(下)全国初の施設転換

 ■負担増への対応が課題

 38万床の療養病床を6年間で15万床に減らし、介護施設や在宅サービスに転換する−という大計画。しかし、ほとんどの病院はまだ、事態を静観しています。こうした中、北海道函館市に来年度から介護施設へ転換することを決めた療養病院があります。なぜ、早々と決断できたのか。患者負担はどうなるのか。病院の動きと、転換の行方を探りました。(中川真)

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 函館湾を一望できる小高い傾斜地に、「函館ベイサイド病院」はある。全188床が介護型療養病床で、自由に歩くことができる人から、寝たきりで会話も交わせない人まで、さまざまな高齢者が暮らしている。

 この病院が医療・介護関係者の注目を集めているのは、おそらく全国で初めて、全病床を来年度から介護型有料老人ホーム(特定施設、全個室144床)と介護老人保健施設(ユニット個室型40床)に転換することを決めたからだ。

 空き病棟から改修を始め、来年夏までに病院を有料老人ホームに転換。老健施設とクリニックを新築する。現在入院中の患者のうち、在宅復帰の可能性が高い人を老健施設に、その他の患者は最後まで暮らせる有料ホームに移ってもらう。

 厚生労働省は来年度の転換を支援する特例交付金の申請を募ったが、反応は乏しく、9月末の締め切りを今月末に延期した。それでも「まだ手をあげる病院はわずかだろう」(医療関係者)とみられている。

 では、ベイサイド病院はなぜ、早々と決断したのか。阿部知哉理事長は「寝たきりの患者を『医療』から『介護』に移す流れは、介護保険の議論が本格化した10年前から見えていた。予想通りの展開だ」と話す。すでに介護型療養病床の廊下幅を有料ホーム用に広げるなど、準備を整えているという。

 阿部理事長はさらに、「寝たきりの人の大部分は認知症なので、症状を悪化させないためには、自宅により近い生活環境を提供するなど、精神的なケアが必要」と強調する。このため、転換後の計画は終身介護をする有料ホームの比重を高めた。

 多くの療養病床が「病院」の存続に腐心しているのとは対照的だが、こうした考え方は、阿部理事長が医師ではなく、ソーシャルワーカーなど福祉分野の経験を積んできたことによる。

 「日本は昔から医師のもとに患者が集まる発想だったが、これからは逆だ。転換後はクリニックを建設する。有料ホームで必要なときは、クリニックから医師を呼べばいい」と話す。

 病院を運営する法人は、函館市内に訪問介護事業所やグループホームなど8施設をもち、理事長の家族が別会社で特定施設などを経営している。こうしたことも、「医療」にこだわらず、「生活」を重視する背景にあるようだ。

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 厚労省からみれば“優等生”ともいえるベイサイド病院。今月12日には家族への説明会を開き、特に反論もなかったという。それでも、真っ先に介護施設への転換を決めたことには、患者から戸惑いもみられる。

 寝たきりの68歳の夫が相部屋に入院して2年半になるという女性(67)は「何より心配なのが費用のこと。少ない年金で暮らしているので、これ以上の負担はできません」と不安をみせる。

 函館市の担当者は「家族の納得を十分に得て、負担面でトラブルがないように慎重に進めてほしいと、病院にお願いしている」と話している。

 市内には、平成23年度に廃止される介護型療養病床が計640床(11病院)ある。同病院はその3割を占めており、転換がつまずけば、他病院にも影響を与えかねないからだ。

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 新施設の利用者負担額はまだ決まっていないが、多床室の療養病床は費用が比較的安く、最高でも月10万円弱というから、転換による負担増は確実だ。

 生活環境は良くなるものの、所得や要介護度によっては、老健施設では月数万円程度、有料ホームでは月10万円近い負担増も考えられる。阿部理事長は「現在の入院患者は全員、最後まで責任を持つ。有料ホームでは入居一時金はいただかない。応分の負担はお願いするが、どうしても厳しい方には、病院として減免するしかないだろう」とする。

 ベイサイド病院は、早くから介護に重心を移していたほか、空き病棟や他の収入基盤など、転換しやすい環境が整っていた特別な例かもしれない。多くの病院は、新たな支援策や診療・介護報酬の動向など、国の“アメとムチ”を見極めようとしているのが実情のようだ。

(2006/11/24)

 
 
 
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