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ナース どう確保するか(上)

 ■診療報酬改定で「売り手市場」に ケア充実も大病院に集中

 国内の病院などで働く看護師は約127万人。約4万人が不足しているほか、欧米に比べて看護態勢が弱いと指摘されています。今春の診療報酬改定では、看護師配置を手厚くする病院への報酬を上乗せしました。看護態勢を手厚くする改正は歓迎すべきですが、この結果、大病院が一斉に看護師確保に動き、小病院や地方で看護師不足に拍車がかかっているほか、病床数の削減が先行する例も出ています。初回は、変化する看護師の採用環境をリポートします。(柳原一哉)

 青森県立保健大学(青森市)の看護学科3年の大山友子さん=仮名=は卒業後、首都圏の大病院への就職を考えている。

 募集要項を取り寄せ、先輩の口コミ情報などにも耳を傾けると、「首都圏の大病院は新人教育が充実していると感じる」からだ。新人教育の不足などから、1年以内に離職する新卒看護師の問題なども考えると、なおさらその思いは強まる。

 さらに、看護に関する学会は首都圏で開かれることが多く、新しい学説に触れる機会も豊富だ。「そうした環境に自分を置き、有名病院に勤務して、より多くのものを吸収したい」と話す。

 好調な就職戦線も大山さんの背中を後押しする。今年から、東京の国立大学病院が県立保健大に求人を寄せるようになった。首都圏の大病院は数百人規模で全国に募集をかけており、こうした病院からの求人も多い。

 対抗して、毎年50人だった求人を倍増することになり、話題になった地元病院がいくつもある。しかし、大山さんは首都圏への就職の気持ちを固めている。

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 全国で看護師の採用意欲が高まっている。厚生労働省によると、国立大学病院など全国423の大病院が来春に採用を予定している看護師数は、今春の1・5倍に相当する約1万9000人だ。

 大量採用で看護師の就職が「売り手市場」になった最大の理由は、今春の診療報酬改定だ。厚労省はそれまで、看護師1人が受け持つ入院患者数を、15人▽13人▽10人の3つに区分していたが、今回、「7人」を新設して4区分に変更。配置が最も手厚い「7対1」の診療報酬(入院基本料)を高くし、「15対1」の約1・6倍と大きく差をつけた。

 厚労省の狙いは、平均在院日数を短くし、医療費を減らそうというものだ。そのために、看護ケアの密度を濃くする必要があると考えたわけだ。

 この改定は、病院関係者をあわてさせた。「もともと7対1以上の配置だった都内の超有名病院では、数億円の増収になった」(関係者)というケースも出ている。

 この病院は極端な例かもしれないが、多くの病院では、増収分で増員する看護師の人件費を補いつつ、きめ細かいケアも実現できると判断し、一斉に看護師採用を活発に始めたのである。

 看護師を増やすのではなく、逆に病床数を減らす「数合わせ」で、7対1を目指す病院もある。

 静岡県の沼津市立病院は、空床率が高い泌尿器科のうち50床を減らすが、同病院は「看護師確保が進まない中で、7対1を実現するための措置です」と説明する。神奈川県のある病院でも、同じ理由で80床を減らすという。

 こうした動きに、専門家からは、「制度改革の本当の目的は、病床減らしではないか」という指摘も出ている。

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 日本は国際的に看護師の配置が手薄だといわれてきた。100床当たり看護職員数をみると、米英が約230人、仏独が約100人なのに対して、日本は約50人だ。

 今回の改革は、こうした現状を改善しようというものだ。日本看護協会によると、今回の改革で「7対1」の病院は5月1日現在で291施設、10月1日現在では549施設と、急ピッチに増え続けている。今後も厚労省の予測を上回る規模に増えるとみられ、全般的には患者に手厚い看護態勢に向かうことになる。

 ただし、人材が大病院に集中する結果、小病院や地方で看護師不足に拍車がかかるという深刻な状況も進んでいる。

 厚労省が昨年末に示した看護職員需給見通しでは、今年は約131万人が必要とみられるが、4万人以上が不足しているとされている。

 勢い、各地で「看護師争奪戦」と揶揄(やゆ)される現象も起きている。「静岡県のある大病院は、雇用歴のある看護師宅に電話をかけ、支度金30万円で復職を誘った」などのケースも散見されるという。

 日看協の楠本万里子常任理事は、「要望が受け入れられた」と制度改革を評価した上で、看護師不足の問題については、「(結婚などを機に退職した)約55万人の潜在看護師の復帰を促すなど、解消を進めていきたい」と話している。

(2006/12/12)

 
 
 
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