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ナース−どう確保するか(中)

 ■復職で人材不足の解消図る いでよ「潜在看護師」

 看護師はもともと女性のなり手が多いことから家庭の都合などで離職しやすく、人材不足を招きやすい面がありました。国家資格を持っていることも、流動性が高い一因です。こうした「潜在看護師」は全国に約55万人いるとされており、復職による人材不足の解消が期待されています。厚生労働省が今年度から始めた復帰のためのモデル事業を活用し、積極的な取り組みを進める静岡県を訪ねました。(柳原一哉)

 「2年のブランクは短くない。患者の安全などを考えたら、このまま現場復帰していいか迷ってしまいました。それで、研修に参加することにしました」。浜松市の主婦、沢谷咲子さん(42)は20歳から看護師の仕事を続けてきたが、一昨年、夫とともに赴任先のイギリスに行くため、離職せざるを得なかった。

 帰国は今年9月。仕事に戻ろうと考えたが、耳に入ってくるのは医療事故のニュースばかり。「現場から2年も離れた自分が、やっていけるのか自信が持てなかった。患者に万が一のことがあってはならないですし」と二の足を踏んでいた。

 その矢先、沢谷さんのように家庭の都合で離職した「潜在看護師」の復帰をスムーズに進めるための無料の研修事業があることを知った。「基本からやり直したい」と申し込み、11月下旬から毎日、浜松医科大学医学部付属病院に通い始めた。

 研修は沢谷さんの希望に合わせて、脳神経外科、外科など4つの病棟を順次回り、来年1月下旬まで研修を積み、復帰を目指すのである。

 研修内容について、桑原弓枝・看護部長は「沢谷さんは経歴からいって新人ではなくベテラン。指導看護師について、通常の業務をこなしながら勘を取り戻していってもらいます」と話す。

 2年ぶりの復帰で沢谷さんには戸惑いもある。「ジェネリック(後発)医薬品が多く出回り、聞き覚えのない名前の薬も多い。薬液をあらかじめセットしたタイプの注射器が普及したり、ブランクを感じます」という。

 研修期間中は無給だ。「まごついても、周囲に迷惑をかけて申し訳ないという気持ちを持たなくていい。一生懸命覚えるだけです」と沢谷さん。仕事に戻れたことの実感で、「毎日が楽しいですね」と話す。

                   ◆◇◆

 研修生の受け入れ機関である同病院には、県から謝礼などが入る上、沢谷さんのようなベテランナースが研修後も病院に残れば、即戦力を獲得できる利点がある。

 今春の診療報酬の改定で、看護師1人が患者7人を受け持つ「7対1」基準を達成すると増収につながるから、「あと80人はほしい」(桑原看護部長)という事情もある。だが、どの病院も7対1を目指して同じように看護師確保を急いでおり、「新規採用しても、年間30〜40人に上る退職者の補充にしかならないだろう」(同)という。

 このため、沢谷さんのような潜在看護師の職場復帰を促すことは、人員確保のために残された貴重な手段になっている。

 静岡は「需給見通しで看護師不足が目立つようになり、早くから危機感を強めていた」(県健康福祉部)ため、独自に取り組みを続け、厚労省が今年度から始めたモデル事業の第1号になった。都道府県の看護協会が運営する「ナースセンター」なども、同じような取り組みを進めている。

                   ◆◇◆

 「復職促進も大切だが、離職も何とか食い止めたい」(桑原看護部長)というように、離職は看護師不足を深刻化させる大きな問題だ。

 日本看護協会によると、看護師の離職率は12・1%(平成16年度)。新卒者に限れば、1年以内の離職率が9・3%。1年で看護師養成学校140校分にあたる4000人の新人ナースが辞めていく計算だ。

 労働者全体の離職率は13・1%(厚労省調べ、同16年)だから、看護師だけが突出しているわけではないが、「養成に時間も手間もかかる割に離職をあっさり許すのは社会的な損失だ」(大学看護学科教授)。

 新卒は、就職前の実習時間が減ったことなどから、就職前後のギャップに戸惑い、離職につながっているといわれる。このため、日看協は基礎教育の充実を求めている。

 ただ、教育よりも職場の意識改革が求められているとの指摘もある。

 離職理由は結婚、子育てなどが最も多いため、離職率低下を目指す浜松医大付属病院にも来年度、院内保育所が設けられることになった。だが、「女性の多い職場なのに、子育て支援策の充実が(看護師不足が叫ばれる)今ごろになって言われている。環境づくりが後手に回っている」(現役看護師)というのが現場の実感だ。日看協幹部も「離職前提の発想を捨て、職場意識の改革から始めないといけない」と話している。

(2006/12/13)

 
 
 
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