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ナース どう確保するか(下)

 ■海外からの看護師受け入れ 厳しい条件でも増加傾向

 日本、フィリピンの経済連携協定(EPA)が締結され、海外から初めての看護師らの受け入れが決まりました。条件が厳格な上、規模も小さいため、看護師不足解消の特効薬とはいえません。ただ、少子高齢化の影響で、わが国の労働力は細ることが予想されます。今後は水準以上の能力を備えた外国人看護師の来日が増えると考え、熱心に受け入れ準備を進める病院も出てきています。(柳原一哉)

 千葉−神奈川を結ぶ「東京湾アクアライン」の千葉県側、袖ケ浦市にある「袖ケ浦さつき台病院」(319床)は、平成11年からベトナム人看護師を受け入れている。政府間協定に先立ち、民間の研修事業で来日しており、現在、ドティ・バックさんら20代後半の5人が働いている。

 「患者の評価は高い」という竹内美佐子看護部長は、その理由をこう説明する。

 「流暢(りゅうちょう)な日本語を操っているものの、彼女たちは意思疎通がうまくいかずに患者の安全に問題が起きてはいけないと考え、何度も確認を怠らない。そんな姿勢に接した患者さんたちが、『逆に安心できる。日本人であってもなくても、その一生懸命さには何も不満がない』と評価している」

 技術面でも、「専門用語の知識不足など未熟さはあるが、日本人看護師の新人時代も同じだ。勉強熱心なので、十分にカバーできている」(竹内部長)という。

 待遇は日本人看護師と同じ。日本にいる以上、同じ待遇でないと衣食住がおろそかになるためだ。

 だが、彼女らが働き始めた当初は、トラブルもあった。「営利目的で外国人を安く雇っているんだろう。血圧も測ってもらいたくない」と看護を拒む患者もいた。

 竹内部長は「同僚の看護師にも同じような気持ちがあるのではないか」と思い、「ベトナムの紹介ポスターを院内に掲示するなど、相互理解を進める努力を続けてきた」という。

 ベトナム人看護師受け入れに力を入れるのは、労働人口の減少で看護師のなり手が減れば、外国人への依存が不可避になるとみるからだ。「将来、外国人看護師を同僚として受け入れることが当たり前になるときがくる。それまでのトレーニングにしたい」という。

 ドティさんらは、ベトナム人看護師らの人材養成に取り組む「AHPネットワーク協同組合」(東京都港区)の研修事業で来日した。現在、49人のベトナム人看護師が、全国14病院で働いたり研修したりしている。

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 今年9月、こうした民間ベースではなく、政府レベルの交渉でフィリピンから看護師、介護福祉士を本格的に受け入れることが決まった。日比EPAの締結だ。

 受け入れ規模は看護師は最大400人、介護福祉士が同600人の計1000人。看護師の条件は、入国前にフィリピンの看護師資格を取得し、3年間の実務経験があることだ。入国後は6カ月間の日本語研修を経て、病院などで実地研修を受けながら、日本語で国家試験合格を目指す。

 3年以内に資格が取れないときは帰国しなければならない。合格すれば無制限に国内での就労が可能となる。つまり、3年以内に国家試験にパスできるか否かが最大のハードルとなる。

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 「ハードルは高い」というのが、関係者の共通した見方だ。AHPの黒田孝之理事長は、「ベトナム人看護師を育てた経験から、6カ月で日本語を習得して、研修を受けながらの3年間で国家試験に合格するのは無理」と話す。このため、AHPでは日本で働きたいフィリピン人看護師を対象に、マニラ郊外で日本語研修を始めている。

 「さつき台病院」など日本の3つの病院は、将来の受け入れを前提に、ここの研修生のうち5人に財政的な支援をしている。ただ、同病院の竹内部長は「日本語をある程度勉強して来日しても、3年で国家試験に合格するのは容易ではないと思う」と心配する。評価が高いベトナム人看護師が日本の国家資格を持つだけに、その懸念は強い。

 外国人看護師の受け入れに意欲的な神戸大学医学部の中園直樹教授は、「事実上の参入障壁ではないか」と指摘する。

 これに対して、日本看護協会は「ケアの質を確保するために、受け入れに厳しい条件をつけるべきだ」と、当初から国家試験合格を受け入れ条件として主張してきた。

 「日本語で看護記録をしっかり書けなければ困るし、日本の国家試験をパスしなければ質の担保は難しい」と同協会役員は言う。

 いずれにしても、「本国よりも格段に待遇がいい日本を目指す看護師、介護福祉士希望者は、今後増える」(AHPの黒田理事長)ことは間違いなさそうだ。

(2006/12/14)

 
 
 
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