■歯周病が生活習慣病招く

　「メタボリックシンドローム」（内臓脂肪症候群）は生活習慣病の一歩、手前。高血糖や高血圧などのリスクが重なり、危険性が高まっている状態です。こうした複数のリスクが相互に影響する生活習慣病のメカニズムに、歯周病が深く関係していることが分かってきました。歯周病は、歯科診療の大きな課題となっています。

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　「肥満が歯を悪くする可能性がある」というのは、齋藤俊行・長崎大教授（口腔（こうくう）保健学）。

　九州大に勤務していた齋藤教授は、平成７〜９年に福岡市健康づくりセンターで行った男女２４１人の調査から、肥満の人に歯周病が多いことに気づき、肥満と歯周病との関係に着目した。

　「歯周病のデータとほかのデータとを結びつけて、歯周病のリスクを探すことができないかと考えていた。血液検査の結果を分析していたら、肥満の人の場合に高くなる数値がいくつかあると分かった」と齋藤教授。

　齋藤教授らの研究グループは、調査をもとにした論文を１９９８年（平成１０年）に米国の歯学雑誌で発表した。この中でメタボリックシンドロームによって歯周病が悪化する可能性も指摘して注目を集めた。

　齋藤教授らのグループが昨年、「日本人女性では、深い歯周ポケット（歯と歯ぐきの間にできる溝）をもつ人の割合は、肥満度が高くなると増加する」との調査結果も発表。米国やドイツの研究グループとともに「サンスター賞」を受賞した。同賞は「歯周病と全身との関係」をテーマとする研究論文が対象。歯周病の調査研究はいま、世界で盛んに行われている。

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　歯周病は、それ自体が生活習慣病であるだけでなく、ほかの生活習慣病とも深く関係していることが分かってきた。

　例えば、糖尿病との関係だ。糖尿病患者が歯周病になりやすいことは、よく知られているが、歯周病を治療すると、血糖コントロールの状態を示す数値が改善するという調査研究もある。

　また、歯周病の原因となる細菌が、患部から血液中に入って心臓などに感染することがあり、心臓病のリスクを高める可能性も指摘されている。

　歯周病を全身の健康との関係でとらえることは、歯科診療の重要なテーマとなっている。

　国の生活習慣病対策でも、歯周病はターゲットの１つとなっている。歯周病は、毎日のケアと定期的な歯科受診を生活習慣に取り入れることで、予防が可能だ。国が平成２０年度から市町村や企業の健康保険組合に義務づけた健康診断後の保健指導では、歯周病に関する教材が使われることになった。

　日本歯科医師会の池主（ちぬし）憲夫・常務理事は「歯周病が治りにくい人には糖尿病患者が多い。糖尿病は自覚症状がないまま進行するが、『口が渇く』『傷が治りにくい』など口腔の症状は比較的早く出る。しかし、これまで歯科と内科とが連携する体制がなかった。全身の健康を考える入り口に口腔の問題があることを、われわれも意識しなければならない」と課題を挙げる。

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　「口腔の感染が全身の健康状態や疾患に影響する」という考え方が１９９７年に米国で提唱されて以来、歯周病と全身との関連性に着目した研究成果が次々と発表されるようになった。しかし、科学的な成果にもとづいて治療を行っているのは、大学病院などごく一部に限られている。

　こうした成果を実際の歯科診療に応用するため、日本歯科医学会では一般の歯科医が診断、治療を行うさいのガイドライン作りに、来年度にも着手する。

　同学会の江藤一洋会長は「歯科診療は口腔疾患のみに対して診断、治療、予防の体系が組まれていた。しかし、糖尿病を治療しなければ歯周病が治らないなど、従来の削る、詰める、抜くといった外科的処置ではすまない問題が出てきた」と歯科診療のあり方の変化について指摘。「診断や投薬について、内科の医師とコミュニケーションができる歯科医師が求められている。そのためには、口腔と全身疾患に関する診療ガイドラインの作成と、歯学部やそれに続く臨床研修での教育を充実させることが必要だ」と話している。

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【用語解説】歯周病

　細菌の感染によって歯肉が腫れる病気。悪化すると、歯の土台となっている骨が溶けて歯がぐらぐらし、やがて歯を抜かなければならなくなる。食べかすを餌にして増える細菌のかたまり「歯垢（こう）」の付着が原因。毎日の歯磨きなどで歯垢を取り除くことによって予防できる。成人の８割がかかっているという。

(2006/12/15)