得ダネ情報 住まい 転職 為替
powered by goo

文字の大きさ:

 
 
 

 

icon

得ダネ情報

 
 
ゆうゆうLife
 

すこやかに逝きたい(2)在宅を支えるホスピス

 在宅看取(みと)りの掛け声がかかる一方、日本では看取りを行う開業医が足りず、医師へのサポートや患者や家族の負担を軽減するサービスも追いついていません。海外でも、在宅の看取りは広がる機運。英国では、難病や末期のがん患者らに痛みや心のケアを行ってきたホスピスが、地域の核となって在宅の看取りを支えています。(佐藤好美)

 秋の日の午後、英国・ロンドン郊外の「セント・クリストファー・ホスピス」を訪ねた。広いアトリエで6〜7人がガラスタイル細工を楽しんでいる。窓の外には、ボランティアらが手入れしたバラが咲き、コイが泳ぐ池には、キツネよけのネットがかけられていた。

 日本のホスピス・緩和ケア病棟は、入院施設のイメージが強いが、「セント・クリストファー・ホスピス」が今、力を入れているのは、末期の患者ができるだけ長く自宅で暮らすための支援だ。

 ピンクと緑のガラスタイルを組み合わせていたマリー・バイヤーズさん(81)は肺がん。火曜と金曜にボランティアに送り迎えをしてもらって、ここで過ごすのが、この3カ月の日課だ。

 「痛みがないことを感謝しているの。身の回りのことは自分でできるから一人暮らしよ。ここに来ると、同じ病気の人にも会えるし、おしゃべりもできてとてもいいわ」

 バイヤーズさんが参加したのは、毎日、昼食をはさんで午前10時半から午後3時半まで開かれる「デイホスピス」だ。同ホスピスの訪問看護を受けている患者らが、タイル細工のほか、陶芸、音楽鑑賞、アロマテラピーなどをして過ごす。

 スタッフは「活発に過ごすよう勧めています。美術や陶芸を『したことがない』と、ためらう方も、こちらが驚くような素晴らしい作品を作るんですよ」という。ロビーには亡くなった患者の作品が並ぶ。

 バイヤーズさんも「タイル細工なんて初めて。でも、2日でここまで作ったのよ。きれいにできたじゃない?」と、楽しそうだ。

 利用者は、日に最大24人。「待機が生じた場合は、一人暮らしや不安感の強い人を優先します」とスタッフは言う。

                   ◇

 デイホスピスは在宅支援の一環。患者は生活の負担が軽くなり、気分転換も図れる。同居なら、家族は看護の休息ができる。

 医療部門の責任者、ナイジェル・サイクス医師は「うちの患者さんは、ほとんど在宅です。これからの課題は在宅。予算もついたので、もっと広げていきます」という。患者の意向に添って在宅を支援すれば、より多くの人に痛みや心のケアも提供できる。

 同ホスピスでは、訪問看護師28人が日に3〜4人の患者宅を訪れる。モルヒネなどによる痛みのコントロールのため、地域の開業医との協力も欠かせない。

 在宅チームの責任者で、看護師のサリー・スタナウドさんは「かつては週にのべ80人ほどだった在宅患者が今は、のべ540人です。『終末期の患者を診たことがない』と、不安をもらす開業医もいますが、頻繁に電話で連絡を取り、必要なら専門医が相談に乗ります」という。経験が浅い開業医も、相談できる専門家がいることが、終末期ケアに携われるカギといえそうだ。

 同ホスピスにはもちろん、入院用のベッド48床もある。自宅で暮らせないほど状態が悪い人のほか、痛みや不安で一時的に状態が悪化した在宅患者が“緊急避難”的に入院する。治まって再び自宅へ戻る患者は4割に上る。

 平均入所日数は14日と短い。患者や家族にとっては、困ったら駆け込み入院できる安心感も、気負わずに在宅を始められる要素かもしれない。

                   ◇

 一方、日本のホスピス・緩和ケア病棟の在院日数は平均43日。8割の患者が最期まで過ごす。英国よりも在院日数が長い背景には、緩和ケアを行う在宅の受け皿不足という面もありそうだ。

 在院日数短縮化に乗り出した病院もある。広島県尾道市の公立みつぎ総合病院の緩和ケアベッドは5床。同院の事業管理者、山口昇医師は「うちの特徴は、在宅を支援するベッドという点。『一度入ったら最期まで』ではありません」と言う。

 家族の看護疲れや、患者の一時的悪化の際に入院してもらい、復調したら自宅に帰す。平均在院日数は24日だ。その分、多くの人が利用できる。

 カギは在宅を支えるサービスの厚さだ。この地域では、介護保険ができる前から、訪問看護などで在宅を支えてきた。山口医師は「患者さんは『死ぬときは家がいいが、家族には迷惑をかけたくない』と言う。24時間、訪問看護する態勢がないと、こちらも患者さんを帰せないし、患者さんも帰れない。緩和ケア病棟を終(つい)の住み家にするのではなく、自宅での暮らしにつなげていく必要がある」と話している。

(2006/12/19)

 
 
 
Copyright © 2006 SANKEI DIGITAL INC. All rights reserved.