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すこやかに逝きたい(3)意思疎通がケアのカギ

ベルリンのホスピス「ショーネベルグ・シュテグリッツ」(撮影・佐藤好美)



 痛みを和らげ、患者や家族の孤独や不安に対応する「緩和ケア」が、終末期の多くの患者に届くには、どんな態勢が必要なのでしょうか。緩和ケアに力を入れているドイツでも、医師たちは「今後の課題は往診医の育成など、在宅患者への対応だ」と口をそろえます。自宅で痛みや不安のない終末期を迎えるには、こうした取り組みが欠かせません。(佐藤好美)

 ベルリンの中心部から車で約15分。クリやトチの実が街路に落ちる住宅街の一角に、ホスピス「ショーネベルグ・シュテグリッツ」がある。

 ベッド数は16。家族が簡易ベッドを入れて泊まれる広さの個室にシャワー、トイレ付き。末期がんなどの入所者は「ゲスト」と呼ばれる。

 ドイツでは、ホスピスと緩和病棟の役割が分かれており、滞在型のホスピスには介護保険が適用される。このホスピスの利用料は所得別に無料から月額20万円まで。昨年は140人を看取(みと)った。滞在日数は平均30日。入所ケア部門長のディーター・ゴイスさんは「自宅に戻る人は絶対的な例外です」と話す。

 28人のスタッフのほとんどが看護師か介護士。医師は常駐せず、開業医がゲストの病状に応じて週に1、2度往診し、緊急時には駆けつける。痛みの管理に必要なモルヒネなどは、医師の責任で看護師が管理する。

 「ここでは、痛みだけでなく、患者さんの精神的ケアも行います。生活の質も向上し、死への準備もできます」(ゴイスさん)

 ゴイスさんの説明によると、ベルリンでも緩和ケアはまだまだ在宅患者に届いておらず、最期まで自宅で緩和ケアを受けながら逝ける運動を、専門医らが進めているという。

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 一方、病院付属の緩和病棟の役割の半分は看取りだが、残りは一時的に痛みや精神不安が生じた患者の症状コントロール。医療保険が適用され、在院日数も平均14日と短い。

 ドイツ西部、アーヘン大学病院の緩和ベッドは9床。年に約230人の入院患者を受け入れる。 ドイツの緩和ケアの最先端を行く同病院では、専門医の育成にも力を入れている。医学部の学生に加え、3年前からは開業医を対象にした講座も始めた。年3回、定員各20人のコースは、常にいっぱいだという。

 1コース40時間。20時間は痛みなどの症状コントロールにあて、10時間は患者とのコミュニケーション。残り10時間は倫理学に費やす。

 痛みのコントロールだけでなく、コミュニケーションや倫理学を重視するのは、緩和ケアが患者の生き方をできるだけ尊重する医療だからだ。

 緩和医療科のルーカス・ラードブルフ教授は、患者とのコミュニケーションが不可欠と強調する。「例えば、がんが骨転移した人に、歩いても痛くない量の薬を使うと、眠るだけになってしまうことがある。薬の量と痛みのバランスが重要で、患者が望むバランスにたどり着くには、コミュニケーションが絶対的に大切です」と言う。

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 終末期に行われる緩和ケアは、痛みのコントロールだけでなく、患者が社会から取り残される疎外感や孤独などの、社会的、精神的苦痛にも対応する。患者の死後に残された子供もケアの対象だ。精神的ケアをする医師、看護師、カウンセラーなどもチームに加わる。

 日本でも、ホスピス・緩和ケア病棟の医療スタッフや経験を積んだ往診医らは緩和ケアを提供する。しかし、全体から見ると、そうしたケアを受けながら逝ける患者はまだ少ない。一般病棟では痛みのコントロールさえ十分でない。

 人口あたりのモルヒネなど医療用麻薬(オピオイド)の使用量は、先進国だけでなく、世界平均よりも低い。適切に薬を使えば、患者は食欲も出て、家族とコミュニケーションも取れ、生活の質が上がる。「生存期間が延びる」との学会発表=表=さえあるにもかかわらず、だ。

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 ドイツは、英国に比べて緩和ケアの提供が遅れているとの思いは、多くの関係者に共通する。ベルリンのホスピスのゴイスさんは、「医師のステータスが高いドイツでは、どんな治療をいつまで、どう行うかを、長い間、医師が決めてきた。普及が遅れた背景には、こうしたことがあるのではないか」と言う。

 ラードブルフ教授も「私自身、緩和ケアに携わって、医者は本当に、患者が何を欲しているかを聞かなければならないと知った。緩和ケアを学びに来る医師も、いかに患者さんとコミュニケーションが不足していたかに気付くようです」と話している。

(2006/12/20)

 
 
 
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