得ダネ情報 住まい 転職 為替
powered by goo

文字の大きさ:

 
 
 

 

icon

得ダネ情報

 
 
ゆうゆうLife
 

世界の母子保健(2)災害の後遺症

バンダ・アチェの共同墓地(手前)には、1万人以上の犠牲者が埋葬されている。倒壊した病院がモニュメントとして残されている


再開した移動診療所で健康診断を受けるムギナヒさん親子(中央)。けがをした母親(右端)も付き添う=ジョクジャカルタ・グヌガン村


 ■不足する医師、消えぬトラウマ

 2年前のインド洋大津波、阪神大震災と同じ約6000人が死亡したジャワ島中部地震など、立て続けに未曾有の大災害に見舞われたインドネシア。ここ数年、財政的な理由で母子保健は厳しくなっていましたが、災害の後遺症で母親、乳児、子供を取り巻く状況はさらに悪化しています。(北村理)

 昨年5月27日午前6時前、ジャワ島中部地震が発生したとき、被災地の一つ、ジョクジャカルタ州グヌガン村に住むムギナヒさん(29)は、バイクで仕事に向かう途中だった。当時、妊娠6カ月。大きな揺れであわてて戻ると、自宅は半壊し、母親が頭に大けがを負っていた。

 村では7割の家屋が倒壊し、14人が死亡。地域の医療保健体制も機能が停止した。

 「怖くて崩れかけた家にいられず、自宅近くの木の下で家族と2週間を過ごしました」

 国の支援もなく、不安を感じながら、日々大きくなるおなかを抱え、バイクで約1時間半かかる診療所に通った。娘が生まれたのは9月。ガレキの残る悪路を約2時間救急車で運ばれ、病院にたどりついたとたん生まれた。

 被災後、メードの仕事(月収約8000円)を失い、今は教会職員の夫の収入(約1万8000円)で一家5人が生活する。家の再建には約40万円かかるが、支援は夫の勤める教会から約1万円あったのみ。再建のめどはたっていない。

 子供の1カ月検診は昨年11月末、日本のNGO「ジョイセフ」(家族計画国際協力財団)の支援で復活した無料の移動診療所で受けた。

 ムギナヒさんはぽっかりと穴があいたままの天井をみながら、「無料診療を受けるまで、生まれたばかりの子供にどうしてやればよいか不安でたまらなかった。これからも日本の支援は続くのでしょうか」と、不安に満ちた表情をみせた。

                   ◆◇◆

 地震の震源に近く、2年前のインド洋大津波で16万人の死者・行方不明者をだしたアチェ州バンダ・アチェでも、ジョクジャカルタ同様、母子保健が危機的状態だ。

 産科医のモハマド・アンダラスさんは「多くの産婦人科医や助産師が被災して所在不明となり、産科医の資格のない外国の医師が帝王切開の手術をしている状況だった」と打ち明ける。アンダラスさんはバンダ・アチェに残った、たった2人の産科医の1人だ。

 出産を支える体制は崩壊したままなのに、時間とともに被災の緊張が解け、妊娠が急増し始めている。

 急増するお産が、被災を免れた一部の病院に集中。さらに、被災によるトラウマが原因とみられる母体の緊張で、帝王切開の数も増えているという。

 ジョイセフの支援で再建された地元NGO「インドネシア家族計画協会」(IPPA)の診療所でも、被災前と被災後でお産の数が倍増している。

 同診療所幹部でもあるアンダラス医師は「地域の診療所が崩壊し、妊婦が出産前に定期検診を受けていない可能性が高い。そのため、ぎりぎりになって病院に駆け込む例が増えているのではないか」とし、移動診療所の必要性を訴える。

                   ◆◇◆

 バンダ・アチェでは、被災した子供への心のケアも課題とされている。

 「家族や友人を亡くしたり、父親の再婚で精神が不安定になっている子供が多い」と言うのは、ピカン・バダ小学校のノルハヤテ校長。同小学校では310人の生徒がいたが、被災後に戻ってきたのは77人。うち、3分の1にトラウマ症状があった。

 授業中、急に机をバンバンたたき出す子。少しの揺れでパニックに陥り、教室を走り回る子。人と接することを過度に怖がり、孤立する子…。

 同校はカウンセリング療法を導入した。療法の一つでは、教室の床に、本やノートなどの“障害物”を置き、トラウマのある子供に目隠しで歩かせる。しかし、実際には、子供が歩き出す前に障害物を片づける。目隠しした子供はそれを知らず、恐る恐る歩を進める。ゴールにたどり着いて、恐れていたのは実体のないものだったことに気づくわけだ。

 「トラウマとはそういう実体のない恐怖であることを分からせ、心を落ち着かせる。また、周りで仲間が見守ってくれていることをイメージさせることで、安心感を抱かせ、復興へ向けての一歩を踏み出させたい」(ノルハヤテ校長)

 しかし、こうした対策も国連や他国NGOの支援によるもの。被災後2年がたち、そうした支援も次第に減りつつあるという。

(2007/01/09)

 
 
 
Copyright © 2007 SANKEI DIGITAL INC. All rights reserved.