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世界の母子保健(3)整わぬお産支援

巡回診療を行うアプリアニさん(中央)=ロンボク島・ペモンコン村(撮影・北村理)


お産介助を実演する伝統的助産師(右)=ペモンコン村(撮影・北村理)


 ■死亡率減へ助産師育成

 資格のない伝統的助産師に頼らざるを得ないインドネシア貧困地帯のお産。国や国際機関の無関心に対して、現場では望まぬ妊娠を減らす取り組みが広がっています。終戦後の混乱期、日本で助産師による家族計画の普及が進んだように、同国でも助産師が地域保健の要として活躍することが期待されています。母子死亡率を確実に減らすには、地元の事情に合わせた長期的視野での支援が欠かせません。(北村理)

 「日本でもインドネシアでも、妊産婦を取り巻く環境は根本的に同じではないか」というのは、30年来インドネシアへの支援にかかわっている日本のNGO「ジョイセフ」(家族計画国際協力財団)の高橋秀行理事。

 産科医の都市部への集中、助産師の不足に加えて一人前に育つだけの教育の欠如など、日本が抱える問題は、インドネシアでも変わらない。

 ただ、インドネシアではそこに貧困が拍車をかける。

 地域の医療体制が整備されていないうえ、病院に行くお金がないというのだ。その結果、妊産婦死亡率は日本の20倍、乳児死亡率は12倍、5歳未満の死亡率は9倍となっている。

 インドネシアの最貧地区、ロンボク島ペモンコン村−。ロシタさん(25)は3人の子供を産んだが、2人を亡くした。1人目は1歳で、2人目は未熟児で生まれ、2日後に死んだ。

 ロシタさんの自宅から一番近い(有資格の)助産所でも7キロ先にある。「これまで、3人の子供は村の(無資格の伝統的)助産師にとりあげてもらった」という。

                   ◇

 ロシタさんの住むペモンコン村(人口約1万5000人)では、無資格の伝統的助産師が49人いるという。

 しかし、この地域では「伝統的助産師の技術は、助産師である母親から娘に引き継がれ、娘は母親が引退するか死亡しないと、助産師になれない。このため、助産師自身がかなり高齢化している」(インドネシア家族計画協会)。

 一方、この地域の有資格助産師は、数が少ない。例えばデヴィー・アプリアニさん(32)は、3年の看護師課程と1年の助産師課程を修了している。

 分娩(ぶんべん)料金は、有資格の助産師が原則、無料なのに対し、伝統的助産師の報酬は、2日分の収入にあたる2万ルピア(約260円)と、米1キロ(約40円)分だ。ロシタさんも「有資格の助産師に頼みたかった」というが、これまで3回の妊娠でも願いはかなわなかった。数が絶対的に足りないのだ。

 アプリアニさんはペモンコン村の20の集落をひとりで巡回する。公務員で、行政の仕事もあるため、現場で分娩を担える機会は限られる。

 ペモンコン村のあるウェスト・ヌサ・テンガラ州は「助産師を増やす計画はあるが、財政的な問題でなかなか人材育成ができない」という。

                   ◇

 高橋さんは「国や国連機関が、伝統的助産師を『妊産婦や新生児の死亡率を高める原因』と決めつけ、認めようとしないことが事態の悪化を招いている」と分析する。

 最貧困地区のペモンコン村では、高利貸に借金をして伝統的助産師への分娩費用を工面する妊産婦も少なくない。住民が頼りにしている伝統的助産師の存在を認め、その技量アップを図った方が、現実問題として出産時の母子の死亡率低下につながるのではないかというわけだ。

 しかし、国レベルではそうした支援策は出てこない。高橋さんは「インドネシア政府には、病院などハコモノの建設を日本のODAなどで引き出したいという思惑がある。日本側も建物を造ったなど、短期で事業結果が出るプロジェクトしか評価しない傾向がある」と指摘する。

 病院を造るのは、少ない医療スタッフを集約し、分娩を一手にそこで引き受けようという考えだ。しかし、「都市部はともかく、ペモンコン村のような田舎で病院を運営するスタッフをそろえるのは難しい」(高橋さん)。

 被災後の分娩増加、医療スタッフの不足で安全な分娩が難しくなりつつある今、現場の診療所レベルでは、望まぬ妊娠の機会を減らす運動が始まっている。地域の助産師や保健師を通じて、避妊や家族計画の知識を普及させようというわけだ。ジョイセフは昨年から、地元NGO「インドネシア家族計画協会」と協力し、日本が戦後の混乱期に行ったような家族計画普及の試みを始めた。

 高橋さんは「母子保健の環境を根本的に改善しようとすれば、地元の事情に合わせた長期的視野での支援が欠かせない」と強調している。

(2007/01/10)

 
 
 
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