得ダネ情報 住まい 転職 為替
powered by goo

文字の大きさ:

 
 
 

 

icon

得ダネ情報

 
 
ゆうゆうLife
 

世界の母子保健(4)貧困の解消

マイクロクレジットの資金運用を話し合う主婦のグループ=インドネシアのバンダ・アチェ


マイクロクレジットの支援で販売し始めたケーキを見せる母娘=インドネシアのバンダ・アチェ


 ■小規模融資 自立後押し 

 インドネシアの最貧困地区では、母親にとって、出産は危険の伴う大事業。赤ちゃんにとって、乳幼児期を生き抜くのは至難の業です。しかし、識字率が低いため貧困から抜け出せず、住民は母子保健まで気が回りません。「まず、貧困解消を」と、新たな融資制度が導入され、識字教室も始まっています。(北村理)

 「あと1カ月もすれば、自分の名前を書けるようになるさ。きっとな」

 インドネシアのロンボク島ペモンコン村の集落で、「識字教室」に通う漁師のフルニーさん(60)は真っ黒に日焼けした顔に、照れ笑いを浮かべた。フルニーさんは住民の信望が厚い、地元の実力者だ。しかし、字が書けず、足し算、引き算もできない。

 「この辺りに学校ができたのは約30年前。そのときにはもう一人前の漁師として働いていた」と事情を話す。

 フルニーさんは昨年9月から識字教室で学んでいる。ほかにも、約100人の大人が文字や数字の数え方、帳簿の付け方などを教わる。

 保健活動をしながら、識字教室を支援するのは、地元NGO「インドネシア家族計画協会」(IPPA)だ。同協会のカタリーナ・ワフリニさんは、教室を開いた理由について、「日々の収入が少ないうえ、教育が不十分で、漁などで得た魚介の取引で仲買人にだまされるケースが多い。それが貧困の原因にもなっている」と説明する。

 貧困の中では、衛生や母子保健は二の次になる。この地域では、「出産」というハードルを越えられない母子は多く、平均寿命はインドネシアの平均より約10歳低い50歳代。乳幼児死亡率は国内平均の倍以上の7・4%だという。

                   ◇

 ペモンコン村の貧困が母子保健に大きな影を落としていることは、「インドネシア国内でも注目を浴びている」とカタリーナさん。

 一昨年5月、地元の新聞など、メディアが「10人の乳幼児が栄養失調で死亡」と報じたからだ。

 ペモンコン村周辺は土地がやせ、リゾート地からも遠い。このため、住民の多くは漁業や日雇い労働などにつく。

 ところが、魚介類の買い付けに来る仲買人が住民に高利の貸し付けも行う。ターゲットになるのは、利子が計算できず、書類も読めない住民。IPPAが調べたところ、こうした住民の収入は、ほとんどが利子の返済に消えていることが分かった。住民は結局、マレーシアやフィリピンに出稼ぎに行かざるを得ない。

 ペモンコン村の一部では約100人が海外へ出稼ぎに出ているという。それで崩壊する家庭もある。

 ボランティアで識字教室の講師をするナフィサさん(23)は、夫が5年前にマレーシアに出かけたきり音信不通だ。ナフィサさんは「自分のような目にあってほしくないから」とボランティアを引き受けた。識字率が上がって、だまされなくなれば、最低限、稼ぎを守ることができる。貧しいながらも、家族と暮らせるのではないかというわけだ。

                   ◇

 「母子保健を普及させるには、貧困など、生活そのものを変えないと難しい」と、IPPAは主張する。同団体はこのため、日本のNGO「ジョイセフ」(家族計画国際協力財団)の支援で、無担保・低利子の小規模融資(マイクロクレジット)を導入した。

 マイクロクレジットは、バングラデシュのグラミン銀行が開始。貧困解消に寄与したとして昨年のノーベル平和賞を受賞している。

 貸し付けの対象はほとんどが女性。バンダ・アチェのピナン村では、10人の主婦がグループを作り、1人につき150万ルピア(約2万円)の融資を受け、それを元手に商売をする。1カ月17万ルピアを返済し、9カ月で完済する。

 返済は共同責任で、メンバーの誰かの返済が滞れば、グループ内で運用に知恵を貸したり、補完することもある。

 エルリーナさん(27)は、原価3万5000ルピアのピーナツケーキを5万ルピアで売り、利益の一部を返済にあてる。麺やハンディクラフトの販売で生計を立てる仲間もいる。

 月1度、コーディネーターが返済状況をチェックするが、昨年6月から半年間、10人全員が“主婦の知恵”をフルに生かして、順調に返済している。

 ジョイセフの高橋秀行理事は「薬を提供したり、診療を行うだけでは、母子保健は根付かない。『子供を守るために衛生状態を良くしよう』と、住民が主体的になることが大切。支援する側は、そのための環境を整える必要がある」と、マイクロクレジットを導入した理由を説明する。

 「貧困の解消はもとより、これで商売と助け合いで培ったネットワークができた。このネットワークはきっと、母子保健の知識の普及にも役立つ」。高橋理事はそう期待している。

(2007/01/11)

 
 
 
Copyright © 2007 SANKEI DIGITAL INC. All rights reserved.