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世界の母子保健(5)望まない妊娠

貧困地区では10代前半で結婚し、出産するケースが多い。左端の女性は14歳で結婚し、第1子を産んだという=インドネシア



 ■解消に男性の理解が課題

 戦後の日本も、インドネシア同様、母子保健の知識不足と貧困により、多数の妊産婦と新生児の死亡がありました。死亡数こそ劇的に改善されたものの、今も計画外の妊娠に悩む女性は多く、男性の理解も欠けがち。孤立化する母子へのサポートなど、新たな課題への対応も求められています。(北村理)

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 「便所もない台所もない6畳間に1家10人もが一緒の生活をしている貧困がざらにあった」

 これは、インドネシアではなく東京の昭和30年代の風景である。

 記したのは、NGO「ジョイセフ」(家族計画国際協力財団)の創始者、故国井長次郎氏。国井氏は回顧録で故郷、福島の様子に触れ、当時のお産について、「暗い納戸、しめった床。ケアもなく、乳児を抱いて生きる若い妻。ウメボシひとつの食事…」と書き残している。

 人口動態統計によると、2004年の妊産婦死亡は、出生数約111万件に対して49件、新生児死亡は同、1622件。これに対して、終戦直後(昭和22年)の死亡は、出生数を補正すると、妊産婦死亡で92倍、新生児死亡で53倍に上る。富国強兵策の影響も残っており、妊娠に歯止めもきかず、人工中絶数は昭和30年に117万件(出生173万件)とピーク。妊産婦死亡率もこの年、戦後最悪の出生10万件につき、約178人を記録した。

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 「日本で母子保健対策が本格化したのはこのころ。母子の健康がやっと、国の政策として考慮されるようになった」というのは、日本家族計画協会の近(こん)泰男理事長。

 母子保健の担い手は、地域の家庭や母子事情に精通した助産師や保健師だった。「助産師による出産が主流だった当時は、1万件のお産を取り上げた助産師も多く、それだけに職業意識も高かった。米を自費で家庭に持ち込むなど、母子の栄養指導なども行っていた」という。

 地域では、主婦らが母子保健指導員として助産師を補佐し、育児や栄養指導、予防医学や定期検診を普及させた。昭和40年ごろには、医師が加わった母子健康センターが全国に設置され、母子保健活動の拠点となった。

 ジョイセフが現在、インドネシアで展開しているのは、約40年前の日本で必要とされたことだ。

 日本の母子死亡率はこれらの運動の成果で劇的に改善した。しかし、日本人の世帯所得が増え、病院の建設が進み、自宅分娩(ぶんべん)が半数を切った昭和35年から約10年間で、母子保健の担い手だった助産師は急速に減少していった。

 近理事長は「分娩環境の悪化や、虐待の増加、地域で孤立化しがちな母子の心のケアといった新たな問題が生じている。助産師の役割を見直し、地域の母子保健を考え直す必要がある」と指摘する。

 厚生労働省は昨年3月、地域の連携強化や情報収集システムの必要性などを、母子保健向上に向けた施策「健やか親子21」の中間報告にまとめた。

 母子の死亡率の劇的な改善を経て、新たな枠組みが模索されようとしている。

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 しかし、解消されていない問題もある。

 国際家族計画連盟(IPPF)のジル・グリア事務局長は「いつの時代も、どの国でも、母子保健の課題はつきない。女性の社会的地位はどこの国でも男性に比べて低く、自分で妊娠をコントロールしにくい立場にあるからだ」と指摘する。

 IPPFは国際赤十字同様、NGOとしては世界最大のネットワークをもつ。これは、母子保健が最も重要で普遍的なテーマであることを物語っている。

 IPPFによると、自身の出産について、「望まない妊娠」とした女性は先進国より途上国に多いが、「もう少し、出産を遅らせたかった」と、計画的な出産でないことを示唆する声は、世界のなかで日本がトップクラスだ。

 数字からは、避妊や家族計画について、女性が十分に管理できていない現状があることを示している。人工中絶は減少傾向だが、今も年間約30万件を数える。

 「他の先進国でも、女性が出産の時期について悩む声は根強い。途上国と先進国で程度の差こそあれ、計画外の出産で苦しむ女性は多い。一方、男性にはそうした苦痛はない」(ジル・グリア事務局長)。

 近理事長は「母子保健の特徴は男性の参加が欠けがちな点。高齢者問題と同様に、社会全体の問題としてとらえないと、解決しない」と強調している。=おわり

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 世界各国では途上国の母子保健を支援する「ホワイト・リボン運動」が展開されている。募金などの問い合わせは、ジョイセフ((電)03・3268・5875)へ。

(2007/01/12)

 
 
 
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