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国保料徴収−最前線あの手、この手(上)差し押さえ

 ■ビデオなど家財も

 国民健康保険に加入する約2530万世帯のうち、保険料を滞納している世帯は、ほぼ5軒に1軒。長期の滞納者も増えており、市町村によっては、差し押さえや、家財の捜索など、強制手段に踏み切るところも。保険料の滞納が増えれば、まじめに納めている被保険者の保険料が上がるなどのしわ寄せが生じるためです。徴収の最新事情を取材しました。(中川真)

 1月19日の朝9時、東京都清瀬市の民家前に約10人が集まった。国保税(料)滞納者宅の捜索を行うためだ。市の徴収担当者、都の応援部隊、施錠を破るカギ業者。警察官も立会人として控えている。

 「市役所です。国保税などの徴収のため、これから捜索を行います」

 「えっ」

 職員が市長名の「捜索通知」を掲げると、約80万円を滞納していた40代のサラリーマンは、しばらく絶句したという。まさか、家の中までは…との思いだったのだろう。サラリーマンが市に滞納した額の約7割は国保税で、残りは固定資産税などだという。

 職員らは約2時間にわたり、4DKの室内をくまなく調べ、公売にかけられそうな物品を捜した。生活必需品などは対象外。この日は結局、新品同様のBS対応ビデオデッキと電気カーペット、中古の碁石と碁盤の計4点が差し押さえられた。

 市担当者は「昨年、自宅を差し押さえて市役所の姿勢を示したが、その後も納付に応じなかった」と説明する。サラリーマンは3人家族。預貯金はなく、給料も大部分が生活費なので、差し押さえできない。すでに差し押さえた自宅は生活の場だから、処分は難しい。そこで、国保税に充てられる家財を差し押さえようと、捜索に踏み切ったのだ。

 ただ、納付すれば、差し押さえは解かれる。サラリーマンはいま、「分納に理解を示しつつある」(市担当者)という。

                  ◇

 滞納世帯への対応は、税などと比べて緩やかだといわれる。「国保は命に直結する」と、差し押さえを避ける市町村も多かった。だが、今後は各地で強制的な徴収が増えそうだ。

 厚生労働省によると、国保料収納率(金額ベース)は平成2年度の94・17%以降、下がり続け、16年度は過去最低の90・09%。“9割切れ”を阻止しようと、厚労省は本格的に徴収強化に取り組み始めた。その結果、17年度は90・15%とやや持ち直した。

 収納率下落はバブル崩壊後の景気低迷に重なるが、厚労省は「苦しくても頑張って納めている世帯は多い。携帯電話の料金は払っても、国保料は払わない人もいる。公徳心がなくなっているのではないか」(幹部)と、景気との相関を否定する。

 滞納世帯数は昨年6月現在で全世帯の19%にあたる約480万世帯。有効期間の短い「短期証」や、窓口で10割を負担し、後で全額還付される「資格証」を交付された慢性的な滞納世帯は、5年前の約2倍にあたる。

                  ◇

 収納率86・22%。都道府県で最も低い東京都は最近、徴収業務に本腰を入れている。先日、豊島区役所で行われた「個別事例検討会」。

 「いつも申し上げているが、制度維持には、公平な納付が不可欠なんです」

 検討会は、区の担当職員にハッパをかける都担当者のあいさつで始まった。悪質な滞納事案について、預貯金や給与などの差し押さえを検討するのだ。この日は、滞納を長年続けてきた会社員のケースが検討された。

 この会社員は、信用金庫に500万円を超える定期預金があった。昨年夏、17年度までの滞納分として、預金から137万円を差し押さえた。本人は自宅におらず、勤務先に連絡しても、「全く反応がなかった」(区担当者)。

 定期預金の場合、満期が来て預金を処理するまで、実際の「取り立て」はできない。この日は、満期日が目前に迫ったので、最後のツメが検討され、さらに今年度分(61万円)の差し押さえも決めた。

 「満期が来たら、すぐ動いてください。保険料よりも税の取り立てが優先されます。急がないと、努力が無になるかもしれません」。都の担当者のアドバイスで段取りが話し合われた。

 「転居すれば、時効で踏み倒せる」という滞納者も多い。だが、都担当者は「茨城に引っ越す際、『月5000円ずつ払います』と誓約し、そのままになったケースもある。現地に照会して給与から5万円を差し押さえた」と話す。こうした争奪戦が各地で一層激しくなりそうだ。

                  ◇

【用語解説】国保税と国保料

 国民健康保険は原則、市町村と東京23区などの各区が運営する。約9割の市町村では、地方税法により「国保税」を、主に大都市では国民健康保険法により「国保料」を徴収している。時効は国保税が5年、国保料が2年だが、差し押さえをしたり、被保険者が徴収猶予を求めた場合などは、時効が停止される。

(2007/03/05)

 

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