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国保料徴収−最前線あの手、この手(中)

富田林市が国保料滞納者から差し押さえ、ヤフーの「官公庁オークション」に出品したスクーター=同市提供


富田林市が国保料滞納者から差し押さえ、ヤフーの「官公庁オークション」に出品したカラオケセット(1万3230円)=同市提供


 □インターネット「公売」

 ■収納率アップの切り札

 市町村が国民健康保険料の滞納者から差し押さえた財産はどうなるのでしょうか? いま、注目を集めているのが、インターネットのオークションを活用した「公売」です。国保料の強制徴収とIT。一見、最も縁遠そうな組み合わせですが、徴収の切り札にしようという取り組みが各地で進んでいます。(中川真)

 明るいブルーが映える50ccのスクーター。昨年1月、日本最大の検索サイト、「ヤフー」が運営する「官公庁オークション」に、大阪府富田林市が全国で初めて、国保料の滞納による差し押さえ品として、出品したものだ。

 「せり」は富田林市が示した見積価格の1000円からスタートした。しかし、「旧式で珍しい」と、24人が入札を申し込み、結局、2万6000円で落札された。スクーターは滞納保険料の“身代わり”となった。

 同市はこれを含めて5回、ネット公売を行い、21世帯の国保料滞納(総額約1897万円)で差し押さえた53の「動産」を出品している。

 スクーター、ピアノ、カラオケセット、毛皮のコート、ブランド品のバッグ、ネックレスなどの宝飾品…。落札額は計64万5076円(見積価格は計28万4100円)。諸経費を引き、国保の会計に入れられる。

 落札額はまだ滞納額の約3%にすぎないが、税務推進室の中野宗一さんは「放っておけば(滞納が)時効になる。小さな市が従来の公売をしても、売り先は限られる。全国から誰でも参加できるネット公売は、新しい徴収方法になる」と期待をかける。

 公売の画面はネット上で誰でも見られるので、市民の関心も集めやすい。差し押さえ後、「ネットで売るのか。必ず払うから待ってほしい」と電話をしてきた滞納者が何人かいたという。

                   ◇

 ネットで公売することを思いついたのは、東京都で都税の徴収を手がけ、現在はヤフーに勤務する堀博晴さん(59)だ。

 都主税局の「機動整理課長」「徴収指導室長」といったいかめしいポストから一転、「全国の自治体が参加するネット公売の仕掛けを立ち上げたい」と2年前に自らメールでヤフーに就職を希望。ビジネスモデルを訴えて、転職を果たした。

 堀さんは都庁時代、税金の滞納差し押さえ品でネット公売を始めていた。ネットに着目したのは4年前。20万円と見積もった日本画がなかなか売れず、落札価格は9万円にしかならなかった。

 「どうしたら、もっと高く売れるのかなあ」

 「うちの両親、ネットオークションに凝っているんですよ」

 「そういえば、息子が『宅配業者にもらったミニカーを出品して、1万円で売れた』って言ってたな」

 同僚との雑談から、ネット公売のイメージができ上がった。ヤフーと組んで都で立ち上げると、鑑定家の評価も低く、あきらめていたネックレスが10万円で売れるなど、思わぬ結果が続いた。役所の信用で入札数が増える効果もあり、堀さんは「ネットに出せば、必ず売れる」と確信した。

 ヤフーが一昨年8月に始めた「インターネット公売」には、すでに220超の行政機関が出品。せりによる落札総額はすでに3億円近い。富田林市の例をみて、国保部門の出品も増えているという。行政機関は落札額の3%をヤフーに支払う仕組みだ。

 ヤフーによると、官公庁オークションでは出品の8割が落札され、通常オークション(3割)の成果を大きく上まわる。堀さんは「参加者が熱くなり、落札価格がハネ上がることも多い。最近は常連の『公売ファン』も増えていますよ」と話す。オタク的な趣味の品物が人気を呼ぶことが多いのも、「生活必需品は避ける」という差し押さえの鉄則に合う。堀さんは全国の市町村で講演し、担当者にネットの効果を説いている。

                   ◇

 ここ数年、市町村が保険料などの差し押さえに躍起なのは、収納率低下や、「納付の公平性」という基本的な考え方のためだけではない。「これからは、徴収がより一層、難しくなる」(厚生労働省幹部)と不安を抱いているからだ。

 大きな理由は、国と地方が進めている「三位一体の改革」の影響だ。国から地方に税源が移り、一般の納税者が地方に納める住民税の比重が、国に納める所得税よりも大きくなる。しかも、6月からは住民税の税率は一律10%になる。所得が低く、いまは税率5%の層の滞納も予想される。

 このため、税よりも徴収部門が弱い国保にしわ寄せされる−と、多くの関係者が心配しているのだ。昨年あたりから、初めて差し押さえに取り組む市町村が増えているという。しかし、差し押さえ品の処理は多大な手間とコストがかかる。だからこそ、堀さんは「便利なネット公売は当たる」とみているのだ。

(2007/03/06)

 

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