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国保料徴収−最前線あの手この手(下)多重債務



 ■過払い金を滞納処理に

 いくつもの貸金業者からの借金に苦しむ「多重債務者」は、200万人とも300万人ともいわれています。資金繰りに苦しむ自営業者、生活費が不足しがちなフリーターや年金生活者など、国民健康保険の滞納者も多く含まれるとみられます。国も対策に乗り出し、払い過ぎた金利分を取り戻し、国保料の滞納処理に充てるモデル事業が来年度から始まります。(中川真)

 「滞納者の委任状を持って『納付証明書』の請求に来る貸金業者が、やたら目につきますね」

 関東地方の自治体の国保担当者が話す。納付証明書には、年間保険料と納付実績が書かれていて、業者は国保料の滞納分を計算することができる。委任状持参だから、理由は聞かずに、証明書を出す。

 「しばらくすると、滞納者が浮かぬ表情で完納しに来ます。『サラ金に借りた』と漏らす方もいた。気の毒だと思うが、どうしようもない」。別の自治体の担当者も「本人の代わりに、業者が納付に来ることもある」と打ち明ける。

 金融業界に詳しい関係者によると、業者は不動産などの担保を確実に押さえたくて、国保料や税の完納を急がせるという。「借金を一本化する『おまとめローン』の融資条件として、多重債務者に国保料などの滞納整理を求め、そのための費用を新たに貸し付ける業者もある」

 関係者は「滞納があって、役所が差し押さえをしてしまうと、税や国保料の処理が優先されることが多いので、先に完納させるんです」と説明する。

 自治体の国保担当者は「そこまでして納付してもらいたいわけではない。生活苦などの事情を相談してくれれば、徴収対象から外す『停止』の措置だってできるかもしれないのに…」と唇をかむ。

                  ◇

 「個人による自己破産の申し立ては、年間約16万件。1人で悩みを抱える多重債務者があまりに多い。『相談』という発想すらないようだ」

 こう指摘するのは、愛知県一宮市の瀧康暢(やすのぶ)弁護士だ。愛知県弁護士会で多重債務の問題に深くかかわっている。

 消費者を保護する「利息制限法」には罰則がない。このため、消費者金融の多くが、利息制限法の上限を超える「グレーゾーン金利」で貸し付ける。金利が高いため、返済が進まず、多重債務に陥るケースも多い。

 グレーゾーン金利については、最高裁が「民事的に無効」と判断。国会も昨年末、3年後をめどに撤廃を決めた。こうした動きを追い風に、多重債務者らが長年支払ってきたグレーゾーン金利を「過払い金」として、業者から取り戻す交渉や裁判が増えている。

 借金を利息制限法の上限金利で再計算すると、返済額は急減する。中には、1000万円以上の過払いが出て、業者に返還させた例も出ている。

 「最高裁の判断後は、大部分のケースで過払い金返還の主張が認められている。知らないまま自殺に追い込まれるなんて、悲しすぎますよ」(瀧弁護士)

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 多重債務問題にかかわる弁護士たちは、社会保険料の滞納に着目した。給料から天引きされるサラリーマンと違い、国保や国民年金の加入者は、借金に追われると、保険料が滞りがちになる。滞納者と多重債務者の“人物像”はかなり重なる。瀧弁護士は「3年以上の滞納者の8、9割は、多重債務を抱えているはず」と分析する。

 昨年夏、日本弁護士連合会(日弁連)は厚生労働省に一つの提案をした。「市町村の窓口で、国保料や国民年金保険料の滞納者が多重債務を抱えていると分かったら、法律相談を働きかけるなどで、過払い金の返還を手助けしてほしい」

 日弁連と協議を重ねた結果、「国保納付相談モデル事業」がまとまった。都道府県と地元の国保連合会が提携し、窓口で把握した滞納者の多重債務に、弁護士などが相談に乗る。平成19年度予算案に250万円が計上され、10都道府県で実施の方向だ。過払い金が返還されたときは、優先的に滞納処理にあてる。

 滞納者が失業中なら、ハローワークや有償ボランティアの紹介、職業訓練の実施なども併せて行いたい考えだ。安倍内閣が格差問題是正で打ち出した「再チャレンジ」の考え方にも沿うもので、政府・与党内でも注目されている。

 国保料の滞納を減らすために、多重債務の解消に協力する取り組みは、国保の収納率の低さを象徴しているともいえそうだ。

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【用語解説】グレーゾーン金利

 貸金業者の金利を規制する法律には、「出資法」(上限29・2%)と「利息制限法」(同20%)がある。出資法の上限を超えた金利は処罰されるが、利息制限法に罰則規定がないため、消費者金融などの多くは、利息制限法を超えた「グレー(灰色)ゾーン」で貸し出している。最高裁は昨年1月、利息制限法を超える金利の返済は「借り手の意思で払ったものではない」と判断。国会でも昨年末、貸金業規制法などの改正案が成立。平成21年末をめどに、出資金の上限金利を利息制限法の水準に引き下げることになった。

(2007/03/07)

 

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