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どこで産むの?(上)

分娩場所の確保を訴える全国ネットの母親ら=先月16日、厚生労働省


 ■医師と助産師、職域の攻防

 ■助産所の存続ピンチ

 出産場所が不足するなか、国は助産師を増やし、医師との連携強化を目指しています。そのため、4月から助産所に対して、連携する医師や病院の届け出を義務づけました。しかし、連携はうまくいっておらず、分娩(ぶんべん)場所の減少に拍車がかかっています。母親らの不満も高まっており、今後の対応が注目されます。(北村理)

 「自宅で出産されたらどうですか。助産師を紹介しますよ」

 まもなく2人目を出産する東京都内の30代の女性は役所に相談したおり、その返答に耳を疑った。

 地元では産院が減り、お産を扱うのは、2病院しかない。一方の病院では分娩料金が高騰し、女性は「不妊治療ですでにお金がかかっている」ので断念した。もうひとつの病院は公立の総合病院。腎臓に不安があるという女性は、1人目をこの病院で産んだ。

 しかし、「子供が予想よりも大きく、吸引分娩されたが、何度も失敗し、意識が混濁した」苦い経験がある。

 後日、看護師が「これなら帝王切開のケースだったのに」というのを聞き、すっかり不信感を抱いた。しかも、今回は「病院から『リスクが予想される出産は、うちでは受けられない』と中絶を勧められた。その後、『助産所で分娩したい』といったら、健診も断られた」という。

 前回の出産で「母親としての自覚が芽生えなかった」と、自責の念にかられている、という女性は結局、2人目は「家族とともに良いお産がしたい」と、口コミで評判を聞いた助産所で出産することに決めた。

                   ◇

 ところが、この女性がようやくたどりついた助産所が今、存廃の危機にひんしている。

 4月から改正医療法が施行され、助産所は「産科医である嘱託医」と「産科、小児科を扱う搬送先の連携病院」を、都道府県に届けねばならなくなった。しかし、病院側には助産所から求めがあっても、連携する義務はない。

 そもそも、産科を扱う診療所が減るなか、嘱託医を決めるのは容易ではない。また、搬送先の病院も産科医不足にあえいでいる。

 改正医療法は、産科医の不足が深刻化するなか、国が助産師の活用や育成を重視し、医師と助産師の連携を進めようと、「双方の意見を取り入れた」(厚生労働省)結果だった。

 しかし、昨年夏、日本で最大規模の分娩数をもつ堀病院(横浜市)で行われていた看護師の助産行為が違法とされ、県警が捜査に踏み切った。これをきっかけに、助産師不足と経営の問題で、看護師に分娩介助をさせたい医師側と、職域を守りたい助産師側が激しく対立。

 感情のもつれは、改正医療法施行を前に、医師側が助産師との連携を拒否するという形で全国に広がりつつある。

 厚労省は「医療機関に連携を指導するなど、対策を検討する」というものの、結局は「個々の病院の経営に口出しはできない」と、消極的な姿勢にとどまる。

                   ◇

 分娩の現場では、ドミノ倒し現象が起こりつつある。

 ある助産所では、長年つきあいのある医師から「高齢で(医療法の改正を機に)休業するつもりだから」と連携を断られた。これで、この助産所も休業を検討し始めたという。

 堀病院事件で、医師側と助産師側の対立が続く神奈川県では、約8万件の分娩のうち、助産所が約1500件を担う。しかし、助産所のほとんどが嘱託先や連携病院を見つけられず、宙に浮いた格好だという。

 全国でも分娩数の多いある県では、助産所の安全性に疑問をもつ医師が連携に反発。全助産所が連携を拒否されている。

 このほか、助産師による自然分娩を病院内で実施している医師が、医会などの役職をはずされたケースもある。

 助産師や医師で構成するNPO「お産サポートJAPAN」の調査(回答36都道府県、回答率33%)によると、全国で少なくとも3分の1の助産所で、嘱託先や連携先のめどがたっていない。

 危機感を抱く母親ら全国の子育てグループ約40団体は先月16日、「お産といのちの全国ネット」を発足。地域での分娩場所確保を求め、100万人署名運動を始めた。

 冒頭の女性はこれから出産まで、「上の子にも出産とは何かを感じさせ、家族のきずなを強めたい」と、2歳の子を連れ、約1時間かけて他市にある助産所に通う。

 「国や自治体は子育てばかりに目を向けるが、母子の命にかかわる出産にはあまりに無策。母親にとって、出産が育児のスタートなのに、本末転倒です」と憤る。近所に住む親類の女性は、今後の出産計画を断念したという。

(2007/04/02)

 

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