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どこで産むの?(下)広がる助産所・自宅出産

より良いお産を求めて永遠のライバルだという三浦医師(左)と石村助産師=神戸市垂水区(撮影・北村理)


 ■助産で得る満足感

 育児放棄や虐待など、子育ての問題が深刻化するなかで、どう産むかがその後の子育てや夫婦関係にも影響するとの声が出ています。こうした声を背景に、助産所や自宅での出産は、わずかですが増える傾向。小さな輪は少しずつ広がりつつあるようです。(北村理)

                   ◇

 ある関西地方に住む50代の女性は、30年近く前の自身のお産体験を振り返る。

 外からの光が入らない、真っ暗な大学病院の一室。硬い搬送用ベッドに放置され、祝福されるはずの出産に、希望の光すらも感じられなかったという。

 たまに、顔の見えない誰かが、無遠慮におなかの様子をうかがい、黙って部屋を出ていく。呼び鈴を鳴らして、痛みを訴えても、「がまんしなさい」と怒鳴られる。突然、バタバタと足音がしたかと思うと、分べん室に運ばれた。そこから先は記憶にありそうで、ない。

 しかし、2人目を産んだ診療所は全く様子が違い、「初めての出産で負った、心身の傷も治してくれた」という。

 約2時間にわたり、電話の向こうでポツリポツリと話す。初産の苦しい思いが、その後の夫婦関係や子供への愛情に違和感をもたらし、「妻として、母として、長年苦しみ続けた」思いに話が触れたとたん、「もうこれ以上は話せません…」と、話がとぎれた。

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 「母体に深く刻み込まれた不幸な出産は、その後の生活に大きな影響を及ぼします」というのは、女性ライフサイクル研究所(大阪市)の村本邦子所長(臨床心理士)。「お産はもともと日常生活の自然な営み。それをわざわざ、病院という非日常の状況をつくり、何の心理的ケアもしなければ、母体と母性の育成に良くない影響を与えるのは当然です。病院も最近は、だいぶケアを取り入れて変わってきていますが、産んでしまえば、おしまいという考えはやめるべきでしょう」

 医師と助産師による「チーム健診」を行う日赤医療センターの杉本充弘・産科部長も「戦後、急速に進んだ産科医療では、妊産婦の心の健康への配慮が欠けていたと言わざるを得ない。多くの病院で助産の要素を取り入れた取り組みが広がるといい」と指摘する。

 妊産婦の満足度について調査した毛利多恵子・天使大学大学院助産研究科教授によると、「満足なお産だった」と答えたのは、助産所が76・8%だったのに対して、診療所が50・4%、病院が41・0〜29・7%。さらに、「お産の経験は育児に関連がある」と答えたのは、助産所は65%で、診療所が43・5%、病院が37・5〜28・8%だった。

 この結果について、毛利教授は「お産の満足度が高ければ、母性が育成されやすく、スムーズに育児に移行していることが読み取れる」と分析する。

 こうした満足感を反映してか、助産所や自宅での出産は増加傾向にある。全国ではまだ1%だが、特に都市部ではわずかずつだが増えており、多い地域では4%に迫るところも。厚生労働省の医政局看護課は「主体的にお産をすることが、その後の育児にかかわりがあると、母親たちが気付き始めているからではないか」と指摘する。

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 妊産婦にとって自然で快適な助産所と、安全性をも兼ね備えた形として、昨日、佐野病院の院内助産所を紹介した。創設と育成にかかわってきた助産師2人がこの春、辞職し、神戸市内に助産所を開業する。

 助産師の石村朱美さん(57)は「いろんな人が24時間、出入りできる助産所では、家族と一緒のお産ができる。病院だと、管理上の問題もあり、家族の受け入れには限界がある」と主張する。助産所では、妊産婦をお産に集中させるため、極力、自宅にいるような環境をつくり、ケアをする。

 毛利教授は自身、開業助産師でもある。「助産師は産前、分娩、産後の一連の作業を妊産婦とともに乗り越えるなかで妊産婦の信頼を得る。妊産婦はそれによって安心して自分のすべきことに集中し、苦痛を乗り越える。その流れを分断すべきではない」。

 この点について、佐野病院で院内助産所を育ててきた三浦徹医師は「かつてはお産介助の主役だった助産師の役割と能力を学び、理解するなかで、できるだけ助産所に近い環境づくりをしてきた。当院の試みはむしろ、医療一辺倒だった病院の産科が本来のお産の意味を見直し、成長したケースだととらえてほしい」と主張する。

 「医師としての三浦さんは永遠のライバル」という石村さんは、開業する助産所を、病院で働く助産師の実習の場所として提供し、助産師の育成に尽力したいという。

(2007/04/04)

 

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