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患者の視点−医療に生かす(上)迎える

リビングのような待合室で、「患者の視点が大切」と話す大石社長=東京都世田谷区の桜新町アーバンクリニック


患者用のイスは大きく、医師用のイスは小さい=東京都新宿区のコラボクリニック新宿


 ■便利に、快適に 需要とらえ変化

 体調が思わしくないとき、たいてい自宅に近いクリニックや診療所を利用します。このプライマリ・ケア(初期診療)の現場で、クリニックづくりに患者の視点を生かす動きが広がってきました。患者の視点が置き去りにされてきたとの反省が背景にあるようです。(柳原一哉)

 東京・世田谷の桜新町アーバンクリニック。10人ほどが座れる待合室は、焦げ茶のアジア風インテリアに観葉植物の緑が映える。リビングのような空間は、医療機関とは思えないほどだ。

 開設から運営まで支援してきたのは、医療コンサルタントのメディヴァ(東京都世田谷区、大石佳能子社長)。もともと、このクリニックは宗教法人の経営だったが、赤字がかさみ閉鎖。そこで、メディヴァが「患者の視点でよりよいクリニックをつくる」(大石社長)と、平成17年度に開設、運営に携わった。

 患者の視点は随所に光る。会社員らが診療に来やすいよう、平日はもちろん、土曜も午後7時までオープン。内科や外科に加え皮膚科、美容皮膚科も。5月からは婦人科、心療内科も始める。この地域の女性の需要を取り込むためだ。

 カルテは印刷して手渡すため、患者は検査データも含め病気の様子を把握できる。

                  ◆◇◆

 開業医の中には従来、「常識」があった。待合室はパステルカラー。カルテは診療所から出さない。「先例がないとの理由だけで変化が妨げられてきた」と大石社長はいう。カルテ開示にも消極的な医療機関は多い。だが、情報をオープンにすることで医師と信頼関係が築かれ、「かえってトラブルは起きにくくなる」(大石社長)とする。

 患者視点のクリニックづくりに注力するのは大石社長の個人体験も背景にある。出産で大病院に移った際、それまでの診察データが引き継がれなかった。“3分診療”を目の当たりにし、患者不在と感じた。

 自身はハーバード大のMBA(経営学修士)所持者。マッキンゼーで携わった小売業などのコンサルティングでは、サービスの受け手への視点を欠かしたことはない。そうした経験が「患者の視点で医療を変革する」との気持ちを後押しし、メディヴァ設立につながった。

 「患者の視点でクリニックを変えていけば、競争の激しいこの世界でも収益性は上がる」と話す。

                  ◆◇◆

 JR新宿駅から徒歩3分の繁華街にある雑居ビル内。昨年11月、ここに開設されたコラボクリニックは「コンビニのような使い勝手」をうたい、診察時間を平日午後6時〜9時の3時間に絞った。

 「新宿で働く人たちのニーズを忠実にくみ上げた結果」と説明するのは内科医の久住英二さんだ。「忙しくて医者にかかれず、救急外来を訪ねてしまう患者さんが意外に多い。昼間しか開いていないクリニックが多いためでしょう」と話す。

 コラボクリニックでは患者用のいすは皮革の大型ソファ、医師用は安価なもの。従来はその逆だが、「おもてなしのサービスの実現なんです。病気で苦しい思いをしている患者さんがクリニックで緊張するようなことがあってはならないから」(久住さん)。

 「患者視点のクリニックづくり」の理念はメディヴァにも共通する。

 このクリニックは、久住さんも研究員として籍を置く東京大学医科学研究所(東京都港区)の上昌広客員准教授研究チームのアイデアが発端だ。

 小売業界でコンビニが不可欠になってきたのと同様に、医療の世界でも「会社帰りなど、普段の生活の動線上に、かかりやすいクリニックが必要になると考えた」という。

 研究チームと上准教授の人脈で集まった医師や同大2年の城口洋平さんら学生も加わり、最小限の経費でクリニックを整備、運営が始まった。黒字化のメドもたち、目標は医療法人としてチェーン展開に乗り出すことだ。

 患者の需要をとらえて変化するクリニック。そこに課題はないのか。上准教授は「コンビニクリニックは、患者が手軽に受診できることをうたっているのであって、診察までお手軽で済ませてはいけない。プライマリ・ケアの現場では重篤な患者もドアをたたくからだ」と話す。

 その上で、「今の取り組みは社会実験。どんな病気が多いか、どんな病気が見落とされがちかといった検証をして、それを手がかりに、将来求められる医療の姿を追求する」と話している。

(2007/04/16)

 

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